優しさがいっぱい詰まった作品で、めちゃめちゃ癒されます。本作は、養護施設で暮らすダウン症の青年ザックと、最愛の兄を亡くし孤独に苛まれながら他人のものをくすねて生計を立てているタイラーの旅物語。共同監督を務めたタイラー・ニルソンとマイケル・シュワルツが、主演のザック・ゴッツァーゲンに出会った際、映画スターになりたいという夢を熱く語るゴッツァーゲンに対して、シュワルツが「それは叶いっこないよ」と即答したことに感情的になったゴッツァーゲンが「じゃあ、君たちが僕のために映画を作ってくれよ」と言ったのがきっかけでこの作品は生まれたそうです。ダウン症の青年が主人公の脚本の売り込みは一筋縄ではいかなかったそうですが、脚本とゴッツァーゲンの高い演技力を証明するテスト映像に惹かれて、『リトル・ミス・サンシャイン』『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』など多くのインディペンデント映画を生み出してきた名だたるプロデューサーや、アカデミー賞にノミネートされた作品を手掛けた実績を持つプロデューサーなどが名を連ねることとなりました。アメリカでは、17館からスタートし、公開6週目には1490館に拡大ヒット。この功績は作品を観て頂くと納得して頂けると思います。ダウン症というだけで養護施設で“不自由な生活”をしているザックの微笑ましい脱獄劇から始まり、トラブルを起こして命を狙われるタイラーとの過酷な逃亡劇に発展。出会うはずのない2人が旅を通して、友情を深め、強い大人の男になっていく姿は観ていて本当に清々しく、2人の優しさの化学反応に何度もウルッとさせられると同時に、ユーモアもたっぷりで温かい気持ちになれます。ゴッツァーゲンの名演もさることながら、シャイア・ラブーフの色気も半端ない!ワイルドで心優しいタイラーのキャラクターの魅力が十分に伝わってきます。人の優しさに飢えている人、世の中に嫌気が差している人はぜひ観てください。
女性なら、ダコタ・ジョンソンが演じるエレノアの視点で、仕事について、恋について、生き方について考えさせられるところがあるでしょうし、男性は2人の主人公が旅する姿に共感できると思います。本作では、同じ日常を繰り返すだけだったら出会うこともない人達が、日常を飛び出したことで巡り逢い、化学反応を起こします。なので、全く違う境遇なのに偶然知り合ったカップルは、その違いのせいで不安に思うこともあるかも知れませんが、本作でお互いに良い刺激を受けられる点や生まれや育ちが違っても価値観を共有できることを客観視できるので、勇気をもらえると思います。
ザックとタイラーの旅は行き当たりばったり過ぎて、本当に目的地にたどり着けるのかわかりませんが、本当の意味でのゴールは何なのかを考えながら観ると、まず旅に出ることの重要さがわかると思います。目的地に着くことも重要ですが、その過程も大事。自分に自信が持てたり、人の温かさに改めて気付いたり、自分では気付かない価値観に触れたり…、得られるものがたくさんあることがわかります。この作品のキャラクター達のように、女子男子に関わらず、どんどん旅をしてください。
『ザ・ピーナッツバター・ファルコン』
2020年2月7日より全国公開
イオンエンターテイメント
公式サイト
TEXT by Myson
© 2019 PBF Movie, LLC. All Rights Reserved.