足が悪い行助と、彼が心を寄せるたいやき屋の店主こよみの静かな日々を描きつつ、セリフやちょっとしたやりとりのなかに、伏線が上手くはられています。友達以上恋人未満といおうか、それ以上といおうか、良い意味で男女の関係がとても曖昧に描かれている点もストーリーをドラマチックにしていて、ある出来事を堺に複雑になっていく2人の関係性に、人間の弱さと強さ、優しさが投影され、心の動き、2人の距離感の変化がとても丁寧に描かれています。2人に起きる出来事は私達によく起こる出来事とは言えませんが、2人の関係の変化や日常には、どんなカップルでも一緒に時を過ごせば経験するような普遍的なテーマも感じられて、人が傷つきながらも愛することを選ぶのかを考えさせられます。実力派俳優が揃って出演している点でも魅力で、行助役に仲野太賀、そして、古舘寛治、川瀬陽太、村上淳、河瀨直美、萩原聖人、でんでんと豪華な面々が脇を飾り、見応えのある作品になっています。
優しさ、愛があるからこそ傷つくと同時にそれがあるからこそ乗り越えられるという美しいストーリーで、カップルで観るのにもオススメです。交際し始めて少し経って、お互いにいろいろな面が見えてきた頃にこそ、本作を観るといろいろ客観視できて、良い意味で冷静に現実を捉えて、心に余裕ができるのではと思います。
誰もが何かしらコンプレックスを持っていますが、キッズやティーンの皆さんはとても気になるお年頃ですよね。悩むこともあるかも知れませんが、コンプレックスを持っていることで、人に優しくできる心も持てるはず。そんなことを本作は教えてくれます。わかり合える人はきっといるので、本作を観て癒されてください。
『静かな雨』
2020年2月7日より全国順次公開
株式会社キグー
公式サイト
TEXT by Myson
©2019「静かな雨」製作委員会 / 宮下奈都・文藝春秋