グザヴィエ・ドランが監督を務める本作では、ジョン・F・ドノヴァンという若き人気俳優の死と、11歳の少年の物語が交錯します。ジェイコブ・トレンブレイが演じる11歳の少年ルパートは、幼少期のドラン自身がモデルになっており、ドランが8歳の頃に『タイタニック』に出ていたレオナルド・ディカプリオにファンレターを書いた思い出から着想し、10年かけて作られたそうです。劇中では、キット・ハリントンが演じるジョン・F・ドノヴァンと、ルパート少年が文通するというストーリーになっていて、ドノヴァンの物語と、ルパートの物語がそれぞれフォーカスされていきます。ルパート少年も子役というところで、ドノヴァンと同じ業界にいるわけですが、まだ2人は離れた存在。でも離れた存在だからこそ、文通という手段ができて、その交流手段を取ることで、2人の表に出さない感情が浮き彫りになるという見せ方が秀逸です。そして、この物語はドノヴァンの死から始まりますが、スターとして生きたドノヴァンの陰と陽の姿を観ることで、彼が得たもの、失ったものによって、彼にとって何が本当は必要だったのかを考えさせられます。
2つ目の大きなテーマは、グザヴィエ・ドランがこれまでの監督作品で一貫して描いてきた母と息子の関係です。母の分まで夢を背負い、子役として成功することを目指すルパートは、母に言えない思いを抱えています。そこには母への愛があるからこその反発があるのですが、母に隠れてやっていたドノヴァンとの文通がきっかけで、母と息子の本当の思いが明かされることになります。これ以上は映画で観て頂くとして、絶望と希望と愛をこうした表現で描くドランのセンスが素晴らしいのと、自身を投影しているからこそリアリティがあり、観る者に訴えかけてくるものを感じます。また、ジェイコブ・トレンブレイ、キット・ハリントン、ナタリー・ポートマンなど俳優陣の名演も見ものです。ショービズ界を舞台にしながらも、私達に身近な心情を描いていて、いろいろな視点で観られるので、老若男女楽しめる作品となっています。
正直な気持ち、自分らしい態度で恋愛できていないと思う人は、体裁を気にして本当の自分を出せないでいるドノヴァンの恋愛を観て、いろいろと考えさせられると思うので、1人でじっくり観るほうが良いでしょう。そういうモヤモヤをお互いに抱えていないカップルなら、デートで観て気まずいことはなさそうですが、切ない要素がある点でウキウキして過ごしたいデートでは不向きです。今日は映画を観るぞという気持ちの時に一緒に観ると良いでしょう。
キッズにはまだちょっと難しい部分もあるかも知れません。PG-12なので12歳未満の人が観る場合は保護者と一緒に観る必要がありますが、親子の物語でもあるのでいろいろと話し合うきっかけにできるとも考えられます。ジェイコブ・トレンブレイが演じるルパート少年の目線で、大人に対して思うことや、自分でこうしたいのにと思うところに共感できると思います。大人になってからまた観ると違った視点でも気付きが得られると思うので、何年か経ってまた観るのもオススメです。
『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』
2020年3月13日より全国公開
PG-12
ファントム・フィルム、松竹
公式サイト
©THE DEATH AND LIFE OF JOHN F. DONOVAN INC., UK DONOVAN LTD.
TEXT by Myson