本作は実在した奴隷解放運動家のハリエット・タブマンの物語。彼女は6歳の頃から奴隷として働き、虐待を受けて育ちました。13歳の時に奴隷監督が投げた秤の分銅が頭に当たったのが原因で頭蓋骨が陥没する重傷を負い、後遺症として急激に強い眠気に襲われる睡眠障害、ナルコレプシーに生涯悩まされました。さらに奴隷主の借金返済のため、姉達は売り飛ばされ、彼女自身も売り飛ばされそうになりますが、その時に命がけで奴隷制が廃止された自由州に脱走し、後に奴隷達の逃亡に貢献します。一見無謀な救助計画でも鉄の意志で多くの人を救おうとする背景には、彼女が受けてきた辛過ぎる体験があるからこそですが、本作では神に導かれているとも思える彼女の神秘的な力も印象的に描かれています。神の存在の描写は観る人の宗教観などによっては縁遠い話に思えるかも知れませんが、本作には客観的視点が感じられると同時に、ものの見え方に押しつけがないので、自然に彼女が天命によって運動家になったと思える描写になっています。歌が仲間同士の合い言葉のように使われているシーンも印象的で、歌には戦う意志や希望が込められていて、黒人文化における音楽の存在価値がいかに大きいかが伝わってきます。シンシア・エリヴォの歌声が強く美しく、テーマ曲“スタンド・アップ”は一度聴いたら忘れられません。運動家としての偉業だけでなく、女性として大きな苦難を乗り越えたハリエットは、私達日本人女性にとっても共感できる女性です。ぜひ彼女の物語を多くの人に知って欲しいです。
恋愛的展開には切ない部分も出てきますが、自分達と重ね合わせて観るというよりは、ハリエットの命がけの闘いぶりに釘付けになると思います。夫婦として普通に生活することもままならない状況が描かれているので、自由恋愛ができる私達の生活がいかに恵まれているかを実感できるでしょう。良い意味で、身を引き締めるきっかけになるかも知れません。
人間としての尊厳を捨てず、家族のため、仲間のために命をかけて戦ったハリエットという女性の生き様を、ぜひ皆さんにも知って欲しいと思います。アメリカ史に詳しくなくても、奴隷制があったことを知っていれば理解できます。本作を観ることでよりアメリカ史に興味を持てたら、勉強にも繋がって一石二鳥ですね。テーマ的に難しい印象があるかも知れませんが、歌のシーンもカッコ良く、ドラマチックなストーリーなので、2時間を越える上映時間も長さを感じないはずです。
『ハリエット』
2020年6月5日より全国公開
パルコ
公式サイト
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TEXT by Myson