シリーズ1作目『ケアニン~あなたでよかった~』の上映会は全国各地で行われ、1300回(2020年2月現在)を突破し、台湾や香港など海外にまで支持が拡大しています。この度、前作に引き続き本シリーズ2作目となる『ケアニン~こころに咲く花~』で主演を果たした戸塚純貴さんにインタビューをさせて頂きました。俳優さんという立場からできることはないかと考えられていて、映画作りについての思いなどもお聞きできました。
<PROFILE>
戸塚純貴(とづか じゅんき):大森圭(おおもり けい)役
1992年7月22日生まれ、岩手県出身。第23回ジュノン・スーパーボーイ・コンテストで「理想の恋人」賞を受賞。2011年のドラマ『花ざかりの君たちへ~イケメン☆パラダイス~2011』で俳優デビューし、翌年『仮面ライダーウィザード』への出演で一躍人気を博す。“ゼクシィCM ふたりの法則”やバラエティ番組『痛快TVスカッとジャパン』への出演でさらに注目を集め、2017年には映画『ケアニン~あなたでよかった~』では主演を飾った。その他の主な出演作にドラマ『Doctor-X外科医・大門未知子』『私のおじさん~WATAOJI~』『スパイラル~町工場の奇跡~』『警視庁ゼロ係~なんでも相談室~season4』、映画『銀魂2 掟は破るためにこそある』『青の帰り道』『MANRIKI』『”隠れビッチ”やってました』などがある。『ケアニン~こころに咲く花~』では前作に引き続き主人公の大森圭役を好演。
作品とか芸術って賛否両論がないと成立しないし、そこを理由にやらなくなってしまったら、映画そのものが終わっちゃうと思うんです
マイソン:
1作目は、2017年の劇場公開後、今も各地の劇場で上映され、上映会は国内外で1300回を超えたとのことで、本当にすごいですね。いろいろな映画があるなかで、娯楽寄りのものもあれば、このシリーズのように社会的な影響を持つ作品もありますが、最初に1作目のお話を頂いた時はどんな心境でしたか?
戸塚純貴さん:
僕の全く知らない世界だったので、すごく怖かったです。これを演じるのってどうすれば良いんだろうって。介護福祉士ってまずどんな仕事なんだろうっていうところから始まり、第1弾の時はお世話になった“おたがいさん”という小規模多機能型施設に行かせて頂きました。そこで初めて認知症の方に触れさせていただき、お話を聞いたり、皆で流しそうめんをやったり…、普通に遊びに行った感じだったんですけど(笑)、スタッフさんと利用者さんの見分けがつかないくらいすごくアットホームな温かい空間がありました。行く前は、介護について堅いイメージがあったのですが、それが全部崩されたというか、結構衝撃を受けました。もちろん大変な仕事なんですけど、そこだけしか見えていないのかなっていうのも感じて、それ以上にもっと伝えなきゃいけないことがあると思いました。
マイソン:
確かに作業的に大変なそうなところばかりイメージが先行しているかも知れませんね。
戸塚純貴さん:
知らないことって結構怖くて、何でもそうですけど、知ろうとしない限りは蓋を閉じちゃうところがあって、福祉とか介護系ってそういうイメージを持たれがちなのかなと思いました。それに僕もこういう作品に携われたから知ったこともあったし、やっぱり若い時とか親が元気な時って全く介護とかケアのことなんて考えないから、そういうのを僕と同じ若い世代にも知ってもらうきっかけにして欲しくて、僕がやるっていう意味をそこで持たせたいなと思いました。だから知れば知るほどこの作品でやらなきゃいけないことがたくさん出てきて、まず所作から始まり、こういう時って何て声をかけたら良いのかとか。例えば認知症の方がいらっしゃって、同じ話を何回もするんですけど、それに対して「同じ話をしてるよ」って言っちゃダメってことも知らなかったし、認知症の方が同じ話を何回も繰り返すっていうのは聞いてはいましたけど、実際に目の当たりにすると結構衝撃を受けるんですよ。だから、会話をするだけでもエネルギーを普段の何倍も使わないといけないけれど、すごくやり甲斐のある仕事なんだなと思いました。利用者の皆さんは人生の大先輩なので、学ぶこともたくさんあります。“ケアニン”っていうのは造語で、“介護福祉士”っていうのが堅苦しいからケアニンっていうそうなのですが、その意味がわかるくらい自分も学ぶことがあって、お互いWin-Winの関係というか、そういう関係性を築けるのがケアの本質なんだろうなっていうのを感じて、それをちゃんと形として第1弾ではやらないといけないなという思いでした。
マイソン:
シリーズ2作目となる今作では、施設でのトラブル(特にスキャンダルになるようなこと)を未然に防ぐ努力をするなかで、運営における自由度をどこまで広げられるかという葛藤が見えました。現場では真面目にやっていても、1つどこかの施設の悪いニュースが出るだけで全体のイメージにすごく影響が出ますよね。例えば、介護って大変だなっていうすごく強いイメージの一方で、利用者に八つ当たりをしたり虐待しているんじゃないかという目もあったり、誤解が一人歩きするような状況もあるような気がしました。
戸塚純貴さん:
誤解がありますし、今作ではそこがポイントとして描かれています。第2弾となる今回は“ミノワホーム”という特養(特別養護老人ホーム)を参考にさせて頂いたのですが、これは全国的に1番多い形態なんです。第1弾の時に参考にさせて頂いたのは小規模多機能型施設っていう結構特殊な老人ホームでしたが、どちらかというと第2弾に出てくるような施設のほうが主流で、歴史もあるんです。昔ながらの変わらない決まりとかもあったり、利用者さんの数も多いし、歩けない方、自分で食事ができない方、お話ができない方…、そういう要介護レベルの高い人達がたくさんいらっしゃって、どこか閉鎖的なんです。ミノワホームも元々白い塀で覆われていて、地域の人達が、壁の中に誰がいるのかとか、何が行われているのかわからない状態で、必然的に距離が生まれてしまったそうです。それを無くしたくて、施設長はハンマーで壁を壊したんです、ベルリンの壁みたいに。それは1つのイベントとして地域の人と一緒に壊したそうです。それで何もなくなって、間を畑にしたり、地域の人も休憩できるスペースを作って、利用者さんも見えるし、地域の人も見えるしって、壁を無くしたことによってすごく変わったんです。地域の人達にとって、この老人ホームの見え方とか在り方が大きく変わって、距離がすごく縮まって、地域の人達もすごく安心できるようになったそうです。
マイソン:
素晴らしいですね!
戸塚純貴さん:
でも、そういう施設だからこそ決め事とかすごくたくさんあるんです。それはもちろん安全とか管理をするために、自由にすればするほど責任も出てくるし、自由にすることだけが正しい選択ではないのかも知れない。その決められた範囲で最大限何ができるのかを考えるのは、介護の永遠のテーマだと思うんですよね。できない理由を見つけるのは簡単だけど、できる方法を考える、そういう在り方を今回の映画でもすごく伝えたかったんです。そういうことを知ってもらうために、自分達に何ができるのかっていうことをすごい熱量で施設長がおっしゃっていたので、たぶん皆そうなんですよね、皆すごくやりたいこととか、たくさん思いを持っていて、それがどうも上手く伝えられなかったり、世間には届かなかったりするのに、取り上げられるのは悪いニュースとか、事件性のあることだったり。もちろんそういう事実もあったのかも知れないし、そういう瞬間もあったんだろうけど、ちゃんとやり甲斐を持ってできる仕事で、利用者さんだけでなく、その家族も含めて、人と人との繋がりがあって、温かい仕事なんだよっていうのを全面に伝えていきたいなと思いました。
マイソン:
そういう面も伝わると良いですよね。一方で観ていてケアしている側の人も精神的にも肉体的にも辛いから、そういった方達をケアすることも必要だなって思いました。本作のストーリーから逸れますが、ニュースで報道されるような虐待が実際起こったとして、それは絶対にダメなことなんですけど、ケアする側も追い詰められているかも知れないなと感じることがあります。
戸塚純貴さん:
そうなんです。そういう行為を絶対に正当化はしませんが、何が原因かって突き詰めて考えてもわからないところが結構あります。やった本人はもちろん、その人を採用した施設はどうなのか、その人をそこまで追い込んでしまった何かがあったのか、そこに繋がる原因、理由って、やっぱりわからないなって思うんです。でも、今そういうダークな面を描こうとする映画はあまりなくて、映画って唯一そういう現状を伝えることができるのになって思うんですけど、難しいんですかね。やっぱりその映像を観た時に不愉快になる人がいるからでしょうし、もしかしたらそういう目に遭った人もいるかも知れないし。でも作品とか芸術って賛否両論がないと成立しないと僕は思うから、そこを理由にやらなくなってしまったら、映画そのものが終わっちゃうと思うんです。
マイソン:
確かにそうですね。本シリーズも2作目まで作られるくらい支持を得ているので、今後チャレンジして欲しいなと思います。では、この作品のお話とは離れますが、すごく影響を受けた映画、もしくは俳優業を営む上で、影響を受けた監督とか俳優さんはいますか?
戸塚純貴さん:
ジム・キャリーですね。小学校の時に『マスク』っていう映画をVHSで観たんですけど、録画がすり切れるほど観ました。子どもの頃に観るアンパンマンみたいな感じで、流せば泣き止むみたいな(笑)。
マイソン:
そうだったんですね(笑)。
戸塚純貴さん:
とりあえず家に帰るとBGVみたいな感じで、ずっと流してました。それから大人になってというか、こういう仕事を始めてから「あれ?ジム・キャリーってすごい人だ!」と改めて思ったんですが、何気なく観ていたけど、すごく悲しい役とかもやるじゃないですか。『トゥルーマン・ショー』なんか最高で、悲しみのわかる喜劇俳優ってすごくカッコ良いなと思ったんです。元々喜劇ってピエロが由来で、メイクで涙のマークがあるのもいじめられていた子がそういうメイクをして笑わせるしか生きていけないみたいなところから始まっているっていうのを調べて、コメディアンの歴史みたいなのを知りました。そういうのがあって、「そっか、コメディアンってすごく悲しい生き物なんだな」とか「そこがあるからおもしろいんだ」っていうのをジム・キャリーを観てすごく勉強しました。元々コメディ好きっていうのもあるんですけど。
マイソン:
じゃあ今後その流れで行くと、やはりダークな役もやってみたいですか?
戸塚純貴さん:
もちろん何でもやらせて頂きたいですけど、社会的なものというか、問題提起できる作品って結構貴重だと思うんです。だからそういうのもできたら良いですし、コメディが好きだから、何も考えないで観られるような作品もやりたいです。
マイソン:
なるほど〜。では最後に本作をどんな人に1番観て欲しいですか?
戸塚純貴さん:
本当にどの年代の方にも観て欲しいですし、今回の映画はいろいろな立場から見られるので、主人公の大森圭という介護福祉士の立場、僕くらいの20代の立場、施設に預ける家族の立場、施設長の立場とか、すごくいろいろな視点でどの世代が観ても考えさせられるようなポイントがあると思います。誰もが通る道だと思うし、一見重そうですけど重い映画じゃなく、すごく楽しい認知症のコメディ映画だと思ってもらって良いと思います。ただ観て自分の心の中だけに留めないで、いろいろな人達と話し合って欲しいし、大きな輪になってくれたらすごく嬉しいし、ありがたいなって思います。
マイソン:ありがとうございました!
2020年2月10日取材 PHOTO & TEXT by Myson
『ケアニン~こころに咲く花~』
2020年4月3日より全国順次公開
監督:鈴木浩介
出演:戸塚純貴/島かおり/綿引勝彦/赤間麻里子/渡邉蒼/秋月三佳/中島ひろ子/浜田学/小野寺昭/吉川莉早/鰐淵恵美/島丈明/坂本直季/牧口元美/松本若菜/細田善彦/小市慢太郎
配給:ユナイテッドエンタテインメント
介護福祉士の大森圭は、小規模施設から大型の特別養護老人ホームに転職したが、多くの利用者がいる施設とあって、これまでとは勝手が違い、戸惑いを感じていた。そんななか、認知症の老婦人、美重子の担当になった圭は、彼女の家族の理解を得るのに苦労しながらも徐々に信頼される存在になり、美重子と家族のためにある計画を立てるのだが…。
© 2020「ケアニン2」製作委員会