ハン・ソッキュ、ソル・ギョングが共演というだけで魅力的ですが、冒頭のナレーションの内容から、ただごとではない空気が漂い、あっという間に引き込まれます。物語は、あるひき逃げ事件が起こることで展開していきます。ハン・ソッキュが演じる市議会議員ク・ミョンフェは、将来を期待される人物で、息子がひき逃げ事件を起こしたと知った時にも冷静に対応しようとします。ただ、予想外の事情が発覚し、問題を最小化しようと画策し始めたことで、どんどん運命の歯車が狂っていきます。一方ソル・ギョングが演じる被害者の父ユ・ジュンシクは、息子が亡くなった事実を受け入れるのに苦労しながらも、事件の背後にある不可解な事柄を調べていき、彼は徐々に真相に迫っていきます。でも、ク・ミョンフェは丸く収めようと手を回し、そこから意外な方向に物語は進んでいくのですが、政治家の力に、弱い立場の庶民がねじ伏せられていく様が本当に恐ろしく映ります。これは弱肉強食の現代社会を投影するストーリーで、いつどこで起きていてもおかしくないと思えるだけに、他人事として観られません。さらにユ・ジュンシクを、世間の誤解を招きそうなキャラクター設定にしている点にも構成の巧さを感じます。人はセンセーショナルなところだけに目がいくと全体像を歪んで捉えてしまい、本性を見極めることなく、善悪を読み違えることがあるのかも知れません。そんな世間の目も、歪んだ社会を容認することに繋がっているのかと思うと、ゾッとさせられます。本作は、ストーリー、俳優の演技、演出とどれも優れていて、期待を越えるパンチ力があり、観終わった後はズッシリとしたものが残ります。これこそ映画だという充実感を味わうことができる作品です。
終始緊張感があり、テーマは重く、性的な話題も出てくるので、デートで観るのには向いていないと思います。本当に恐ろしい人物とはこういうことなんだなとわかるストーリーなのですが、それが社会的地位を持つ人だったり、一見良識ある人だったりするだけに、違う意味でゾッとさせられます。特にステータスのある人とお付き合いしていて安心しきっている人は、複雑な気持ちになるかも知れません。一人でじっくり観るか、友達と観ることをオススメします。
R指定はついていませんが、かなり怖いシーンが出てくるので、せめて中学生以上になってから観るのが良いと思います。政治家の裏の顔、格差社会、移民の問題、障がい者が抱える問題など、幅広く社会問題を取り上げている点で勉強になるところも多く、エンタテインメント的にも見応えがあるので、興味があればぜひ観てください。映画が好きになってきて、いろいろなジャンルを開拓している人にもオススメ。韓国映画の魅力を存分に感じられると思います。
『悪の偶像』
2020年6月26日より全国順次公開
アルバトロス・フィルム
公式サイト
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TEXT by Myson