人種差別と貧困で、生きる道が限られている黒人社会の現状を描いた物語。父は子どもができると、将来自分のようにはならないようにと願いつつ、生活を支えるためにやむを得ず犯罪に手を染めていく…。その連鎖は何世代にも渡って続いていき、主人公のジャコールもそこから抜け出せません。セリフの中に「故郷は壁のない牢獄だった」とありますが、刑務所にいようが、外にいようが危険な状況は変わらないという現実が突きつけられるストーリーになっています。ただただ、主人公の日常を映し出しているだけなのですが、本当にストレスフルな状況で、少し希望を持ったと思ってもそれが簡単には叶わない現実を皆目の当たりにして、1日1日を生きることで精一杯なんだろうというのが伝わってくるドラマチックな内容になっています。そこに怒りがため込まれていくのは当然のことで、そのやり場のない感情が暴力、殺人に向けられていく負の連鎖に、観ている側もやるせない気持ちになります。結末はちょっと希望を感じさせますが、解決策を提示するというものではなく、同じ物語の繰り返しが終わる日が来るのかを観る側に問う作品なのだと思います。映画的には、ジャコール役のアシュトン・サンダースの演技が見事。激しい感情を持ちそれを沸々とさせながら、自身の運命を受け入れていく、抑えた演技にぜひご注目ください。
主人公と恋人のロマンチックなシーンもありつつ、性消費的な描写もあるので、デートで観て盛り上がる内容ではありません。物語のトーンも静かで暗めなので、1人でじっくり観るのに向いている作品だと思います。ただし、主人公と似たような状況で、それを変えたいと思うカップルは、客観視するきっかけに観ると良いかも知れません。
ドラッグ、殺人、売春など、内容的にハードで、15歳未満の人の鑑賞には不適切とされていますが、主人公が幼少の頃から、罪を犯して刑務所に入ってしまうところまでを描いていて、キッズやティーンの皆さんの世代の物語になっているので、15歳になったら観てみてください。日本でも格差問題が取り沙汰されてきていて、こういう状況は他人事ではなくなってきていると思います。それを変えるのは本人達だけでなく、周囲も含めて努力が必要だと思いますが、まずはこういう現状が世の中にあることを知るところから始めてみるのはどうでしょうか。
『オールデイ・アンド・ア・ナイト:終身刑となった僕』
2020年5月1日よりNetflixにて配信
R-15+
公式サイト
TEXT by Myson