神のお告げがあったと言って、急に身の回りのものを処分しようとガレッジセールを開く主人公。彼女の家にはたくさんのアンティークがあり、それぞれにまつわる思い出が映像の中で描かれていきます。一方、現在の彼女は孤独で、認知症の傾向なのか、時々誰と何を話しているのか混同することも。そんな彼女は過去のある出来事に囚われているようで、現実と幻想の中を彷徨っています。物語が展開するにつれ、その原因が明らかにされていくのですが、彼女が“身辺整理”をしていくなかで、娘や息子に関わる人生の精算もしていくストーリーとなっています。そんな本作は、突然大切なアンティークを一気にガレッジセールに出すという主人公の行為を心配しながら、静かに見守るような感覚で観ることになると思いますが、油断は禁物です。最後の最後で大きな展開が待っていて、衝撃的かつ一瞬「どういうこと?」と呆然とさせられますが、ある意味の潔さが爽快でもあります。
本作は、神の存在、終活、親子関係の修復…と、どのテーマに焦点を当ててみるかによって印象が異なり、幻想と現実の間を行き交う演出などによって一見つかみどころがないようでいて、そこが観る側の想像を膨らませてくれるところであり、魅力となっています。象の時計についての解釈が観終わった後すぐにはできなかったのですが、あのくだりは、主人公が娘にした約束を守ることになったのだと私は考えました。細かいところに「?」が散りばめられているので、ぜひそんなところの考察も楽しんでください。あと、カトリーヌ・ドヌーヴとキアラ・マストロヤンニの実の親子が、劇中でも母娘を演じている点で、演技とはいえ、どんな気持ちで演じているんだろうと想像するのも楽しいです。
人生の終わりを迎えようとしている老女のストーリーなので、デートムービーという雰囲気の作品ではないですが、のどかで美しい世界観なので、2人の好みが合えばデートで観るのも良いのではないでしょうか。最後に「ええええ!!!」となるので、観終わった後に誰かと解釈を巡って話したくなる作品です。その点で会話のネタになり、映画鑑賞後のティータイムや食事も楽しく過ごせるでしょう。
テーマ的に大人向けであり、わかりやすいストーリーというよりも、感覚や感性で楽しむ作品という印象です。なので、いろいろな経験をして、家族の歴史なども積んでから、大人になって観るほうが何倍も感情移入しやすくなると思います。でも、文学的な世界観が魅力的な作品なので、文学好きの高校生、大学生ならばトライしてみても良さそうです。あとアートの要素も多いので、美術、芸術が好きな人も独自の目線で楽しめるかも知れません。
『アンティークの祝祭』
2020年6月5日より全国順次公開
キノフィルムズ、木下グループ
公式サイト
© Les Films du Poisson – France 2 Cinema – Uccelli Production – Pictanovo
TEXT by Myson