“Black Lives Matter(ブラック・ライブズ・マター)”という言葉をよく耳にするようになり、最近ではテニスプレイヤーの大坂なおみ選手による訴えかけも大きな話題となったことで、日本人にも広く知れ渡りました。そんななか本作を観ると、私達が知るべき歴史がまだまだたくさんあることがわかります。
本作は、ベトナム帰還兵が、戦争から約半世紀後に、共に戦った戦友の遺骨と当時秘密裏に埋めた金塊を求めて当時の戦場に戻るというもの。映画の冒頭や途中には、ベトナム戦争当時、黒人差別問題はどんな局面にあったかを示す実際の映像なども挿入され、多くの黒人男性が否応なしに戦場に送り出されていたことや、帰還しても良い待遇を受けることはなかったことなども示されています。彼等は自分達を苦しめる国のために、命をかけて戦っていたわけですが、そんな兵士のうちの5人が、戦時中に膨大な額になる金塊を見つけたらどんな物語を生み出すのかというところに、今も根強く残る問題をが見事に反映されています。金塊を見つけた当時は、強い絆で結ばれた5人の仲間は全員生きていて、彼等を率いていた隊長は、「この金塊を使って、自分達の手で黒人を救うんだ」という大義名分を掲げます。ただその隊長が命を落とし、戦争から約半世紀が経ち、残された4人もさまざまな事情を抱えながら生きています。いくら絆があるとはいえ、今莫大な額になる金塊を目の前にしても彼等は仲間でいられるのか、彼等は本当に黒人のためにその金を使うのかというのが、試されていくわけです。人種は関係なく、誰でも山のように積まれた金塊を見たら欲が出ないわけもなく、平気で仲間を裏切るかも知れません。そんななか、英雄的存在だった隊長の意志を知っている残された4人が、お互いを信じる気持ちと疑いを持つ気持ちで葛藤する姿に、人は追い詰められている状況下でも人を助ける存在でいられるのかという問いが見えます。本作は黒人差別問題をテーマンにしてはいますが、根底には普遍的なテーマもあるように思います。今、世界は新型コロナウィルス感染症の影響で苦しんでいる人が多くいます。日本でも失業や倒産などが相次ぎ、そこまでにならなくても収入が激減したりして困窮している人が増えている状況です。そんな状況にあっても、自分のことだけでなく、周囲にも目を向けて手を差し伸べることができるのか。本作を観ると、そんなことをすごく考えさせられます。また、他に頼らずに自分達の手で苦難を乗り切るんだという決意のようなものも感じられて、絶望と希望の両方が描かれています。彼等がどんな結末を迎えたのか、真相はぜひご自身の目で確かめてください。
そして、2020年8月28日に若くしてこの世を去った、チャドウィック・ボーズマンさんの姿も観ることができます。人知れず闘病しながら俳優業を続け、さまざまな名演を見せてくださったことに深く感謝し、ご冥福をお祈りします。
※“Black Lives Matter”をどう訳すのかについては背景にさまざまな解釈があるようで、「黒人の命は大切だ」もしくは「黒人の命も大切だ」と訳されます。
物語の舞台は現代ですが、回想シーンで戦時中の様子が映るので、痛々しいシーンが出てきます。また、現代を映したシーンでもアクシデントが起きて唐突にショッキングなシーンが映し出されるところがあります。ラブロマンスの要素はチラッとはありますが、ロマンチックになるような展開とは言い難く、デートのムードとはあまり合わない内容です。なので、映画好きカップルか、ベテランカップルには良いですが、初お家デート(Netflix作品なので)には不向きでしょう。
仲間同士のノリやユーモラスなシーンは年齢問わず共感できるとは思いますが、戦争にまつわる映画ではショッキングなシーンは避けられないので、キッズにはまだショックが強いと思います。中学生以上のティーンには、歴史を知る意味でも、人種差別問題の実態を知る意味でも観て欲しい1作です。個人間の人種差別も大きな問題ではありますが、世の中全体が差別を肯定する社会が何を生み出しているのか、現実を知るきっかけにしてください。
『ザ・ファイブ・ブラッズ』
2020年6月12日よりNetflixにて配信開始
公式サイト
TEXT by Myson
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