今注目のドイツ人俳優フランツ・ロゴフスキさんが来日。とても穏やかなお話ぶりで、優しいお人柄がうかがえましたが、本作で演じられていたキャラクターとどこか被って見えるところがあり、勝手に親近感を持ちました。ダンサー、振付師としてのキャリアもあるフランツさんですが、俳優という職業にどう向き合っていらっしゃるのかなど聞いてみました。
<PROFILE>
フランツ・ロゴフスキ:クリスティアン役
1986年2月2日ドイツ、フライブルク生まれ。2007年からクロアチア国立劇場、ベルリンHAU劇場などの作品で俳優、ダンサー、振付師として活躍。2011年には、“FRONTALWATTE”の主役で映画デビューを飾り、2013年『愛のステーキ』でミュンヘン映画祭男優賞を受賞。演劇でも、2015年にミュンヘン小劇場のメンバーとなり、2018年には、国立劇場ミュンヘン・カンマーシュピーレのレパートリー作品第3弾として“NO SEX”(岡田利規 作・演出)に出演した。その他の映画出演作に、『ヴィクトリア』『ハッピーエンド』などがあり、2018年は『希望の灯り』と『未来を乗り換えた男』の2作品で主演、ベルリン国際映画祭のシューティング・スター賞、ドイツアカデミー賞主演男優賞に輝いた。
俳優としてこの時代に感じる恐れとは
マイソン:
とても口数が少ない役だからこそ、演じていて難しいのではないかと思いました。台本を読んで読み取れること、演じていくうちに理解できたことは、どんなことですか?
フランツ・ロゴフスキさん:
行間を読むことは大事です。前半は本当にセリフが少なく、こんなに話さない役はこれまでにありませんでした。コーヒーを入れたり、タバコを吸ったりする仕草とか、細かい身体の動きで表現するということが必要だったけれど、だからこそ伝わることが多かった。相手を見つめるだけで、話しかけないとか、そういう静寂が、必要な役で、それが逆に表すことが多かったと思います。
マイソン:
フォークリフトの運転シーンが多かったですが、実際に動かしてみていかがでしたか?研修のシーンで観ていたフォークリフトの危険性をアピールするビデオが過激でホラー映画のようでしたが、実在のものを参考にされているのか、もしくは監督のユーモアでしょうか?
フランツ・ロゴフスキさん:
フォークリフトの運転はとても難しくて、撮影の合間にも練習しました。フォークリフトの危険を説明する動画はもともとあったもので、フォークリフトを使う人には有名らしく、youtubeにも上がっています。僕は知らなかったですけど。YouTubeでこれを検索したら出てきますよ(とおっしゃってメモを書いてくださいました)。
※劇中で登場するフォークリフト研修動画はこちら
マイソン:
ありがとうございます!かなり独特な動画でしたが、実際の研修動画だとは驚きです。探してみます。で、本作がドイツで公開された時の反応はどうでしたか?
フランツ・ロゴフスキさん:
ドイツではすごく高評価で、いろいろな賞をもらえました。かつ世界中で反響があり、大成功と言えると思います。ただ、この作品はアートハウス、インディペンデント系の映画で、大衆向けの映画とは、興収とかでは比較できません。映画が好きな人が探さないとたどり着かない映画だと思うんですね。これが上映されたのもアートハウス系の劇場で、日本映画とか海外の作品が上映されるような劇場で上映されました。
マイソン:
国外で公開される上で、こういうことを知って欲しいという部分はありますか?
フランツ・ロゴフスキさん:
特に伝えたいメッセージというものがあるわけではなく、心を開いて真っさらな状態で観て感じ取って欲しいです。その一方で作品の中では発見できるメッセージがいっぱいあると思います。
マイソン:
フランツさんはダンサーで、振付師もされていますが、踊りで表現するという経験が、俳優として活かされる部分と、逆に俳優としてやっていることがダンスに影響する部分はありますか?
フランツ・ロゴフスキさん:
今は“話すダンサー”という風に自分を認識しているんですけど、踊っている時は、動きを大きくしていたので、ただダンスをしているというよりは、自分の能力を見せているという感覚だったんです。むしろ今のほうが、小さな動作ですとか、日常のなかに潜んでいるリズムですとか、そういうものを役者として見せるので、ダンスをしているという感覚、ダンサーという認識があります。
マイソン:
なるほど。やはり相互作用があるんですね。今はインターネットが普及していて、国が離れていても繋がりやすい世界になりましたが、俳優さんという立場では、この時代のメリットみたいなものを感じることはありますか?
フランツ・ロゴフスキさん:
移動しやすくなりましたし、お互いの文化を学ぶことができますし、他の国の監督と一緒に仕事をするという意味では、世界が繋がっていることが、役者という仕事にも影響していると思います。ただ、演じるということでいうと、そのレシピは常に同じで、自分の人生を基にしたり、その感情を表したり、とてもシンプルなことなんですね。相手の話を聞いたり、そういう動作がすべて役者、演技に繋がっているんですけど、そのレシピは、3Dが発展しても、グリーンスクリーンが発展しても変わらないものだと思っています。浮世絵が好きで、今回の来日で2枚購入し、そのうちの1枚が役者の絵だと思うんですが、その顔は今の役者とやっぱり変わらない。200年前も今の役者もやっぱりベースになっているものは同じなんだなと感じました。その浮世絵の人物がスマホを持っていても、たぶんそれは変わらないだろうと思います。ただ、こういう時代に生きていると、やっぱり物の見方が変わってくる。それによって行動の仕方も変わってくるのはやむを得ないことです。僕自身子どもの頃、テレビでヨーロッパの有名映画がいくつもやっていて、それを観て育ったという話を監督としてたんです。監督の幼い頃は、いわゆるテレビ映画、低予算の映画ばかりが流れていたそうで、どういう作品を観るかによって、映画の言語自体の伝わり方が変わってくるんじゃないかと思っています。今NetflixとかAmazonでもいくつもの作品が配信されていますけど、そこで流している映画は、いわゆる映画館で観るミヒャエル・ハネケとかフェデリコ・フェリーニの作品とは違うという風に感じるんです。そういうところに常に意識を向けなくてはダメで、疑問を抱かなければダメで、この傾向が続くと映画的言語というのが失われるんじゃないかと恐れています。
2019年3月12日取材 PHOTO & TEXT by Myson
『希望の灯り』
2019年4月5日よりBunkamuraル・シネマ他全国順次公開
監督:トーマス・ステューバー
出演:フランツ・ロゴフスキ/ザンドラ・ヒュラー/ペーター・クルト
配給:彩プロ
内気で無口な27歳のクリスティアンは、在庫管理担当としてスーパーマーケットで働くことになり、慣れない仕事に最初は戸惑うものの、周囲に温かく見守られ徐々に現場に馴染んでいく。そして、ふと見かけた同僚のマリオンに惹かれていったクリスティアンは、徐々に彼女との距離を縮めていくが…。
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