鉄鋼や石炭、自動車などの産業が衰退し、錆びついてしまった工業地帯にあるロックフォード(アメリカ)。本作は、ここに住む若者3人、キア、ザック、ビンの12年間を映したドキュメンタリーです。3人は複雑な家庭に育ち、そこから逃れるように、幼い頃からスケートボードにハマったとされていて、だからこそスケボー仲間はお互いに家族のような存在になっています。本作の製作、撮影、編集、監督を担っているのが、3人のうちの1人、ビン・リューで、彼が撮っているからこそ、キアやザックのありのままの姿がカメラに収められていて、彼等が抱えている思いの複雑さが伝わってきます。彼等はお互いのことをよく知っているつもりで過ごしているわけですが、12年間のうちにそれぞれ大人になり、考え方、生き方がそれぞれに変わっていく様子も収められています。子ども頃の問題を受け止めて前に進もうとする者もいれば、そこから逃れられないままでいる者もいる現実が映し出されているわけですが、親の問題が彼等に大きく影響していて、そこに社会的問題も加わっていることで、彼等が抱える苦悩がさらに複雑で深刻なものになっていることがわかります。また彼等の生い立ちのなかで、虐待が一つの大きな問題としてあがるのですが、虐待をしてしまう人間について一方的に悪という視点で撮るのではなく、理解しようとしてこの作品を撮っているビンの姿勢に、寛大さと映画を撮る者としての大きな覚悟が見えます。虐待は絶対に許されないことですが、本作を観ていると、「まさか、あの人が!」という人でも、どんな人でも犯してしまう可能性があるのだと思い知らされます。2020年、新型コロナウィルス感染症の影響で、世界はどう変わるかわかりません。これは日本にいる私達にも他人事ではないことだと思います。
デートのムードが盛り上がる内容ではありませんが、カップルで観て一緒に考えるきっかけにできる内容も含まれています。ザックと恋人との関係には、将来一緒に過ごそうと考えているカップルがぶつかりそうな問題が出てきます。好きなだけでは一緒にいられない現実の厳しさ、難しさも映し出されているので、結婚を意識しているなら、敢えて一緒に観て、お互いの考えを話すきっかけにするのもアリでしょう。
このドキュメンタリーを観ると、住んでいる地域や家族がもたらす悪い影響のせいで、長らく苦しめられている人がこの世の中に大勢いることがわかります。でも彼等の中には、それを周囲のせいにしないで、自力でどうにかしようと頑張る人もいます。反面教師もいれば、良いお手本も登場する作品で、いろいろと考えさせられるところがあるので、ぜひキッズやティーンの皆さんにも観て欲しいです。年齢も皆さんと近いので、国は違っても、共感できるところが多々あると思います。
『行き止まりの世界に生まれて』
2020年9月4日より全国順次公開
ビターズ・エンド
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TEXT by Myson