始まってすぐに産後うつの話なのかなと思いましたが、それだけではなく、男尊女卑が色濃く残る社会を映し出す内容というところで、国も年代も問わず響く内容となっています。主人公のジヨン(チョン・ユミ)は、結婚と出産を機に専業主婦になり、毎日育児と家事に追われています。夫デヒョン(コン・ユ)は、妻の疲れた様子を心配しますが、ジヨンはあまり自覚がない様子。でも実はジヨンは別人が憑依したような態度を取り、その時の記憶は残っていないということがたびたびある状態です。デヒョンはジヨンにその事実を伏せたまま、それとなく精神科医に相談することや、家でゆっくりすることを勧めますが、ジヨンが求めているのはそこではないことになかなか気付きません。ジヨンを見ていると、続けたかった仕事を手放し、社会との距離ができてしまうことがいかに辛いことかが伝わってきます。育児が大変なのは当然ですが、逆に周囲の人間はそこばかりに目が行きがちなのかもしれません。育児は頑張りたいし、母や妻という立場も大切にしたい、でも自分の人生も諦めたくない。世の多くの女性が抱えるそういった気持ちをジヨンは代弁しています。
そして本作はジヨン夫婦の問題だけで終わりません。デヒョンのような妻思いの男性と結婚してもこういう事態になってしまう背景に、社会的な問題があることを描いています。具体的な内容は本編を観て頂ければと思いますが、お隣の国でもまだこんな時代錯誤があるのかと驚かされると同時に、腹立たしく感じます。タイトルに“82年生まれ”とわざわざついているのは、「これは昔話ではない」ということを象徴しているのでしょう。でもそんな逆境のなかで昔も今も戦っている女性達が複数いることが描かれているので、希望も与えてくれます。女性はもちろん、男性にこそ観て欲しい内容です。
時代が変わってきたとはいえ、結婚と出産で大きく人生が変わるのは、やはり女性です。職場復帰の機会があったとしても、休んだり、辞めずに続けていた場合と比べると、大きな違いがあるでしょうし、元のポジションや仕事を取り戻すのには相当な苦労が必要でしょう。そして、本作には専業主婦についての誤解や偏見があることも描かれていて、経験してみないとわからない苦労や辛さがどれだけあるかがわかります。結婚を意識しているカップルや夫婦は一緒に観ることで、本音をぶつけ合う機会になるのではないでしょうか。
世のお母さん達の見えない苦労や辛さがわかる内容であり、社会的に男女がどんな関係にあるかも客観的に見えるので、若い皆さんにも観て欲しい内容です。主人公が学生の頃のお話も出てきて、進路に悩むティーンの皆さんにとって身近に感じる要素もあります。特に女子の皆さんは、これから社会に出たり、いずれ結婚して子どもを産む人もいると思いますが、女性というだけで苦労が何割も増すという現実を知った上で、負けずに生きるにはどうすれば良いか考えるきっかけにして欲しいです。
『82年生まれ、キム・ジヨン』
2020年10月9日より全国公開
クロックワークス
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TEXT by Myson