俳優として活躍し、監督としては『ザ・ギフト』に続き、2作目の長編として本作を撮ったのは、ジョエル・エドガートン。『ザ・ギフト』は何とも後味の悪い(褒め言葉)、パンチの効いた作品で、彼が次にどんな作品を撮るのか楽しみにしていた人も多いはず。そんなエドガートンは今回、原作者ガラルド・コンリーが回顧録として、矯正治療(コンバージョン・セラピー)での実体験を告白した「Boy Erased: A Memoir of Identity, Faith, and Family(消された少年:アイデンティティと信仰、家族の回想)」(2016/未訳)を映画化。この矯正治療は、強制的に性的指向やジェンダー・アイデンティティを変更させようとする科学的根拠のない治療で、鬱や深刻なトラウマをもたらすだけでなく、自殺率を上昇させるとも指摘されているそうです。米国では規制があるものの現在も継続されているところがあり、これまで約70万人の経験者のうち約35万人が未成年と言われています。本作に限らず他の作品でも、アメリカでは、LGBTQへの排他的な見方に宗教観が強く影響しているのがうかがえますが、本作は単純にLGBTQの問題を扱うだけでなく、「信仰とは何か」「神とは何か」を問う内容にもなっている点で優れています。そして、信仰と思い込んでいるものが大切な人との信頼関係を不安定なものにしていく様が鋭く描かれていて、主人公(ルーカス・ヘッジズ)が抱える問題を普遍的なテーマとして上手く昇華させています。これが実話だと思うと一層恐ろしくなりますが、原題の“BOY ERASED(消された少年)”という言葉から、その怖さがより伝わるのではないでしょうか。
ルーカス・ヘッジズ、グザヴィエ・ドラン、トロイ・シヴァン、ジョー・アルウィン、セオドア・ペレリンと、若手俳優の演技も見事で、ニコール・キッドマン、ラッセル・クロウ、ジョエル・エドガートンというベテラン勢に負けない演技力と存在感を発揮しているのも見どころ。映画としても、実態を知って頂く意味でもぜひ観て欲しい作品です。
かなり重い内容で実話を元にしていることもあり、浮かれた気分では観られない点で、初デートには向きません。また、価値観、家族観、人生観を問う内容なので、まだ関係が浅いと鑑賞後の会話にとても気を使うことになりそうです。逆に敢えて相手の本質を見抜きたい場合は、本作を一緒に観て語るのは良い策かも知れません。
PG-12なので12歳未満の人は保護者同伴で観賞ということになりますが、その前に皆さんの周囲ではどんな価値観の人がいるのかを考えるきっかけになる作品です。世代によって、社会的な価値観からいかに影響を受けて育ったかも異なるし、そういう時代の影響を受けた教育内容も異なるので、もしかしたらだいぶ感じ方、考え方が違うかも知れません。話し合うことで解決して欲しいとは思いますが、もし家族や身近な人に言いづらい問題を抱えていたら、不用意に話す前に本作を一緒に観て、相手がどんな考えを持っているのか探ってみるのも1つの手でしょう。
『ある少年の告白』
2019年4月19日より全国公開
ビターズ・エンド
公式サイト
© 2018 UNERASED FILM, INC.
TEXT by Myson