父子で暮らすことになった一樹と虹輝が主人公の物語。本作の原作は2020年で結成30周年を迎える音楽ユニット“TOKYO No.1 SOUL SET”の渡辺俊美が、息子との実話を綴った「461個の弁当は、親父と息子の男の約束。」(マガジンハウス刊)です。虹輝が高校に通う3年間、虹輝は休まずに学校に行き、一樹は毎日お弁当を作ることを約束します。3年間毎日お弁当を作るなんてそれだけですごいなと思うのですが、さらにそのお弁当のクオリティがめちゃめちゃ高いんです。正直、世のお弁当を作っている親御さん達からすると、「ハードルを上げないでくれ」と思ってしまいそうですが(笑)、一方でとても良いお手本になるお弁当の数々が登場するので参考になります。そのお弁当を見ているだけでもワクワクして、父の愛情を感じるのですが、合わせてそのお弁当を受け取る息子の成長や父への愛も描かれていきます。
息子に自由にのびのびと育って欲しい父、父の思いをわかっていながら簡単にはできないと葛藤する息子。特に息子の言葉一つひとつが、今の若者の心をリアルに投影していて、人にはそれぞれ頑張り方があるし、いつエンジンがかかるかゆっくり見守る必要があるのだということを教えてくれます。男同士、多くを語らないからこそ、こういうコミュニケーションの形もあるんですね。そんな特別な関係をちょっと羨ましく思えるストーリーです。
一樹の恋愛にもリアルな展開があり、「そうそう、こういう人いる」「こういう人と付き合うと、確かにそういう気持ちに陥りそう」と一樹のパートナーの気持ちにも共感できます。それは何なのかは映画で観て頂くとして、ネタバレしないようにざっくりいうと、一緒にいるのに寂しいという感覚です。そんな感覚に陥っている人は、本作を観ると「私もこれだ」と気付くかもしれませんが、そこからどうするかというヒントも、本作を観て客観視すると得られると思います。
親は子どもに幸せになって欲しくて一生懸命ですが、それが同時にちょっとプレッシャーになることもありますよね。そんな思春期の皆さんの「私だって頑張ってる」「俺だって頑張ってる」という気持ちを、虹輝が代弁してくれています。学校での友達とのお弁当のやり取りも観ていて楽しくて、等身大で楽しめるはずです。私も高校時代に、強面だけど気は優しい男友達が、クラス皆に配れるくらいたくさんのイチゴをタッパーに入れて持参したのを思い出しました(笑)。そんなホッコリが詰まった映画です。
『461個のおべんとう』
2020年11月6日より全国公開
東映
公式サイト
© 2020「461個のおべんとう」製作委員会
TEXT by Myson