本作の原作は、累計55万部を突破する西加奈子の同名小説です。原作を知る人はどんな風に映像化されたかを楽しみにされていることと思います。一方、原作を知らない、読んでいない人にとっては、冒頭からワンちゃんが出てくるので、ついつい犬がメインの映画かと思ってしまいますが、物語の軸といい、展開といい、「そうか、こういう物語なのか」と、良い意味で予想を裏切るストーリーに引き込まれると思います。そして、3兄弟妹を、吉沢亮、北村匠海、小松菜奈が演じていて、美し過ぎる最強の兄弟妹というところでも、とても魅力を感じます。
物語は、長谷川家の次男、薫が実家に帰ってくるところから始まります。一見平和そうな長谷川家ですが、“音信不通だった父が2年ぶりの帰宅”というざわつくワードが出てきたり、いるはずの人がしばらく登場しなかったり、気になる部分が徐々に明かされていきます。前半は、長谷川家の3兄弟妹が、仲睦まじく育っていく様子を描いていて、青春映画を観ているような感覚なのですが、ある大きな出来事から、一家は試練に向き合うことになります。そんな家族の様子を“さくら”と名付けられた犬が見守るという構図なのですが、物語の最後で薫が“さくら”をどんな存在として捉え、“さくら”を通して世界をどう見ようと思ったのかというところに、物語の深さが表れています。そういった点で、思想的、哲学的な要素がある映画が好きな人にもオススメです。
長谷川家の両親の夫婦関係や、兄弟妹の恋の話など、いろいろな恋愛関係が描かれています。大人からすると気まずくなるほどではないように思いますが、思春期のカップルにとっては観ていて少々恥ずかしくなる要素もあるかもしれません。これから子どもを持とうとするカップルや夫婦は、「小さい子の性教育として、こういう説明の仕方もあるんだな」と思えるシーンが出てくるので、参考にするのも良いでしょう。
吉沢亮、北村匠海、小松菜奈と人気若手俳優が出ているし、この3人が演じる3兄弟妹の子どもの時代から青年時代までを描いているので、ティーンの皆さんは等身大で感情移入できると思います。でも、結構おませな展開も出てくるので、親子で観ると気まずいかもしれません。誰かと一緒に観るなら、仲の良い友達にしましょう。
『さくら』
2020年11月13日より全国公開
松竹
公式サイト
© 西加奈子/小学館 © 2020「さくら」製作委員会
TEXT by Myson