実在の人物をモデルにした本作は、社会のいろいろな側面を映し出しています。人生の多くの時間を少年院を含め刑務所で過ごした主人公の三上は、出所後真面目に生きようとするも、問題にぶつかってばかり。就職しようにも簡単にはいかず、生活苦が彼をまた元の世界に押し戻そうとします。そんな彼の周りには、彼の奮闘をネタにしようとするマスコミの人間もいれば、彼を助けようとする者もいます。そういった人達とのやり取りで、彼の純粋さが見えるのですが、そのまっすぐ過ぎる性格ゆえに生きづらくなっている様子を見ると、この世の中の冷たさも同時に感じます。
この世で生きる処世術みたいなものがいろいろなキャラクターから語られるのですが、改めて私達は大事なことをいとも簡単に割り切って生きてしまっていることに気付かされ、何とも言えない気持ちにさせられます。本作は主人公がこの世の中に順応できるかどうかを描くにとどまらず、私達にも選択肢があり、「こんな世界であなたはどんな人間として生きていきますか?」と問うているように思います。正しいか正しくないかというよりも、そうやって生きていかなければいけない世の中になっている現状を叩き付けられるストーリーです。役所広司をはじめとするキャストも名演を見せているので、エンタテインメントとして、そして社会問題を知るきっかけとして観て欲しい作品です。
綺麗事では済まされない難しい問題がテーマとなっていて、デートが盛り上がるような内容ではありませんが、一緒に観て感想を言い合うと、根本の相性が合うかどうかは少し想像できるかもしれません。主人公の周囲にいるキャラクターはさまざまな価値観の人がいるので、誰に1番共感したかによってもお互いがどんなタイプの価値観を持っているのか推し量れるのではないでしょうか。
若い皆さんこそ、本作を今観ておいたほうが、若さ故のトラブルを起こさないように気を付けることができるのではないかと思います。今は将来のことをあまりリアルに想像できないかもしれませんが、過去の過ちが一生付きまとうこともあります。自分は改心したつもりでも、社会に受け容れてもらえなかったりということも本作を観るとわかりますよ。
『すばらしき世界』
2021年2月11日より全国公開
ワーナー・ブラザース映画
公式サイト
©佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会
TEXT by Myson