フランスで実際に起こった未解決の“ヴィギエ事件”を映画化した本作で描かれる裁判では、憶測が飛び交います。3人の子どもを持つジャックは妻殺しの容疑者とされますが、そもそも妻は姿を消しただけで遺体も見つかっておらず、生死は確認されていません。そしてジャックが容疑者とされているのは、妻の恋人の証言があったからですが、彼の証言の真偽を示す証拠は乏しく、妻の恋人自身が怪しさ満載で、こんな簡単なことで殺人犯にされてしまうのかと恐怖を覚えます。でも私達も物語が進むにつれ、観ながら憶測だけの真犯人捜しに夢中になってしまう点で、事件に直接関わりがなくオーディエンスに過ぎない人物でも、冤罪を生む一端を担ってしまっていることに気付かされます。また裁判を仕切る人物のエゴが垣間見えるシーンも印象的に描かれていて、裁判そのものが機能していないとしたら、この世の中はどうなってしまうのかと一層恐ろしさを感じます。
そして、弁護士を演じるオリヴィエ・グルメをはじめ、弁護士を影で支える女性ノラを演じたマリーナ・フォイスや、イラッとさせるキャラクターを演じた他の役者達の演技も見事。また、二転三転する裁判の行方をスリリングに描きつつ、クライマックスの弁護士(オリヴィエ・グルメ)のスピーチでこの物語が伝えるべきメッセージをしっかり落とし込み、余韻を残す演出も秀逸です。フランスの社会問題を目の当たりにする物語ですが、日本でも同じようなことが起きているに違いありません。情報が飛び交う今を象徴する内容でもあるので、国は違えど身近な物語として観てください。
最初から最後まで惹きつけられるはずなので、デートをしている意識が一瞬飛んで、物語にのめりこむと思います。でもそれはお互い様ということで、ぜひ観賞中は没頭して映画を楽しんでください。そういう意味でも、交際期間が浅く、何を話せば良いかわからないカップルは、話題探しに疲れたら本作を観ることで、一旦会話のネタ探しから解放されましょう(笑)。映画を観た後は、自然に会話のネタも見つかると思います。
弁護士とノラが事件の真相を探る上で、人物がたくさん出てくるので、キッズにはちょっとついていくのが大変だと思います。中高生くらいならそれなりに理解できるでしょうし、テンポ良く物語が進んでいくので飽きずに観られると思います。法廷劇のおもしろさも実感できる作品なので、これを機に他の法廷劇を描いた作品にも興味を持ってもらえたら嬉しいです。
『私は確信する』
2021年2月12日より全国順次公開
セテラ・インターナショナル
公式サイト
©Delante Productions – Photo Séverine BRIGEOT
TEXT by Myson