「女って、何?」という難解なテーマに挑んだ本作で、主演を務めた湯川ひなさんと、長久允監督にインタビューをさせていただきました。ユーモアたっぷりに描きつつ、深いところにも切り込んでいく本作に、お2人はどんな思いで挑んだのかお聞きしました。インタビューはまだ作品を作成中の段階で実施させていただいたものです。
<PROFILE>
湯川ひな(ゆかわ ひな):小池清美 役
2001年2月26日生まれ。東京都出身。2014 年、テレビCM“ミサワホーム”でデビュー。2015年には映画『あえかなる部屋-内藤礼と、光たち』で等身大の役を演じ、女優としてのスタートをきる。2016 年、短編映画『そうして私たちはプールに金魚を、』で主演を飾り、第33回サンダンス映画祭短編部門に正式招待され、日本作品で初めてグランプリを受賞した。その他の主な出演作は、テレビドラマ『受験ゾンビ』(2019)や、『バースデーカード』(2016)、『ウィーアーリトルゾンビーズ』(2019)など。公開待機作に『子供はわかってあげない』がある。
長久允(ながひさ まこと):脚本・総監督
1984年8月2日生まれ。東京都出身。CMプランナー、映画監督、映像作家。大学卒業後、電通に入社。NTTドコモの“ドコモダケ”シリーズなどの広告を手掛け、2013年に世界最大級の広告賞と言われるカンヌ国際広告祭のヤングライオンフィルム部門で日本人初のメダリストとなる。2016年の短編映画『そうして私たちはプールに金魚を、』では、第33回サンダンス映画祭ショートフィルム部門のグランプリを日本映画として初受賞。さらに、2019年の長編映画デビュー作『ウィーアーリトルゾンビーズ』(監督・脚本)も第35 回サンダンス映画祭で日本映画として初めて審査員特別賞のオリジナリティ賞に輝いた。4月には、ミュージカル「消えちゃう病とタイムバンカー」(作・演出)の公演を控える。
どうあっても肯定してくれる力がこの作品にはある
マイソン:
本作には笑えるシーンがあると同時に、深いテーマも描かれています。まず監督に質問で、“女性”がテーマというのはいろいろな意味でチャレンジングいうか、難しい部分もあったんじゃないかと思うんですが、制作する上で苦労された点、そしてこの道はスムーズだったのか、険しかったのか、教えてください。
長久允監督:
まずすごくナイーブというか繊細なテーマだと思っていて、ただ僕が普段暮らすなかで僕が男だとしても世の中に対して発信しないといけないという使命感から、この物語を作ろうと思いました。一つひとつ扱う物語やトピックに対しても、妻がセクソロジーとかジェンダーに関わる仕事をしているので、細かく意見を聞きながら丁寧に歌詞や物語に落としていくということをしているんですけど、やっぱり扱うテーマとして受け取る人のステータスが違うので、さまざまに思われるかなとも思います。僕は、女性であること以前にそれぞれが“個人”であると思うので、それがこの作品を作ることによって女性の枠組みに入れてしまうかもしれないことを危惧しながらですが、いろいろな課題があるにせよ、一度世の中に課題ごと形にして発信しないと議論も始まらないなと思いました。ですので、険しかろうとも発信せざるを得ないという思いで作らせていただいています。
マイソン:
湯川さんは今回この役が決まった時、こんな風に挑んで欲しいというようなリクエストはありましたか?
湯川ひなさん:
この作品には確かなメッセージがあるのですが、清美が普通に人として生きているということは、そこに何か提示するものっていうのはなくても良いかなって、自分のなかで考えました。監督も「何かここに意味を持たせて」というようなことは全くおっしゃらなかったので、とにかく物語として観ている方々にも共感できる人として存在したいなと思っていました。
マイソン:
回を追うごとに主人公がいろいろなことを考えつつ、わかっていくようで余計にわからなくなるようなところがすごくおもしろいと感じたのですが、湯川さんは演じてみて、最初の段階から何か変化を感じるところはありますか?
湯川ひなさん:
そうですね。やっぱり清美がいろいろな人と会って成長していく物語なので、大きく変化しなかったとしても、何か必ず変わっていると思っています。だから自分自身も実際にゲストの方々と日々会っていくなかで、すごく刺激を受けますし、いろいろな方がいるなと思って、それが自分のなかでの変化でもありますね。
マイソン:
(監督へ)キャラクターそれぞれがすごくおもしろいのですが、モデルとなる人物がいるのでしょうか?
長久允監督:
モデルはいないんですけど、僕は比較的自分の中の人格や自分の中の思いを切り分けてキャラクターを作ったりするので、僕なのかなと(笑)。あとは、それこそ(「不思議の国のアリス」の)アリスとアリスの夢の世界の中のいろいろな思想をぶつけては去っていく人々というイメージで作ったので、そこにお互いの関係性として共感はなくとも、それぞれ強い思いをぶつけていただけるようにしたいなと思って、キャラクター作りをさせていただきました。
マイソン:
なるほど。キャスティングもすごくおもしろかったので、どうやって決めていったのか気になりました。
長久允監督:
先に歌詞があって、この歌、この台詞を本当に読んでいただきたい人達ということで、皆さんそれぞれキャスティングさせていただきました。
マイソン:
テーマ自体が結構深いですが、監督なりにゴールを最初からイメージされていたのか、作りながら見えてきたものがあるのか、どうでしょうか?
長久允監督:
最終話のことになりますが、彼女がどう決断すべきなのかっていうのは、本当に最後まで作りながら悩みました。ドラマを観ている人に対してどういう行動を示すべきなのかも含めて作りながら最後まで悩んで、今の形に決断しているというのはありますね。
マイソン:
湯川さんは、脚本を読んだり、実際に撮影しているなかで、「これって自分とは違う考え方だな」と思ったり、逆に「これはすごくわかる」と思ったことはありますか?
湯川ひなさん:
どうあっても肯定してくれる力がこの作品にはあると思います。自分自身も人から見たらわからないようなコンプレックスとか、気にしていることがいろいろあって、「それでもいいじゃない」って言ってもらえるのはすごく力になると感じます。
マイソン:
では女性を描く上で難しい点と、演じる上で難しい点、逆におもしろい点はありますか?
長久允監督:
やっぱり僕の主観として男の体ではあるので、本当の問題自体を経験していない点が描く上で1番難しい点だと思います。それはいろいろなことを勉強して書くということで、なんとか乗り越えようとしていますが、実体験がないということは1番難しい点でしたね。
マイソン:
逆に作っていく上で発見みたいなものはありましたか?
長久允監督:
そうですね。スタッフが半分かそれ以上女性なので、僕としての回答をいろいろ書いている台詞とか歌詞に対して、「ちょっとこれは納得できない」とか言われていくんです。受け取り手それぞれが私の話だと思って受け取ってもらった時にいろいろな感想をいただけるので、それを全部真摯に受け止めてという日々です。
マイソン:
湯川さんは演じる上でおもしろかった点、難しかった点はありますか?
湯川ひなさん:
「私は女か、私は女だ」っていう台詞があるんですけど、そうやって認識するってことに、すごく自分自身も共感しました。元々「女だ、男だ」ってことでカテゴライズされたくないタイプだったのですが、そうやって自認することが普段あまりないからこそ、こうやって認識されるってことはやっぱりスッとくるタイプなんだなと思ったり、そういうところがおもしろいなと感じました。
マイソン:
ちょうどカテゴライズのお話が出て、うちの媒体名が「トーキョー女子映画部」ということで女性で括っているのですが、昨今ジェンダーレスな考えや意見に触れることが増えて、時代的に女子って括ること自体がどうなんだろうって最近結構悩むんです(苦笑)。もちろん女子が皆同じとも思っておらず、でも女性特有のことも必ずあるとも思うのですが、お2人は性別によるカテゴライズについてどう思いますか?
長久允監督:
僕自身は個人個人の人生については性にカテゴライズされずに生きられるような社会にすべきだと思っているんですけど、やっぱり体や仕組みが違うし、今抱えている社会問題が違うからその問題提起として無視はできないんじゃないかなと思っています。そういう意味で今回のドラマだとカテゴライズしていかないと進められなかったので、ちょっと葛藤して作っていた部分はあります。
マイソン:
そうですよね。湯川さんはいかがですか?
湯川ひなさん:
全く同感です!私自身もどっち付かずでいたいというか、小さい頃はずっとそう思っていました。女子でいなきゃいけないのがすごく嫌だったので、そういうことは思いつつ、「私は女だ」っていう風に思うところもあったりします。この作品はカテゴライズしているとはいえ、その先の問題もちゃんと見据えて描いているなって思います。
マイソン:
では最後の質問で、これはインタビューでいつも皆さんに聞いているのですが、今までで大きな影響を受けた映画とか、俳優、監督などがいらっしゃれば教えてください。
長久允監督:
僕は映画が好きなのでもちろんいっぱいいるんですが、今浮かんだのはルイス・ブニュエルという監督です。作品が好きというか、「自由に物事を作って良いのである」「どんな映画でも映画である」という価値観で作られていて、すべての物事がそうだと思うので、その考え方にすごく影響を受けているなと思います。
湯川ひなさん:
私は渥美清さんになりたいと思っていたんです。自分にない動きとかユーモアがあって、だけど普段の現実からもかけ離れないで日々生活していてちゃんと地に足を着いて生きていて、表舞台にも出るみたいな、そういう生き方が良いなと思っています。
マイソン:
渥美さんの作品を観たきっかけは何かあったんですか?
湯川ひなさん:
『男はつらいよ』を観てみようと思ったのがきっかけです。渥美さんご自身は寅さんのようなタイプの方ではないらしいんですけど、眼差しからも寅さんにしか見えない、そういう佇まいが良いなと思いました。
マイソン:
本日はありがとうございました!
2021年2月26日取材 TEXT by Myson
『FM999 999WOMEN‘S SONGS』
2021年3月26日(金)より毎週金曜21:30【WOWOWオンデマンド】にて配信/3月29日(月)より毎週月曜21:30【WOWOWプライム】にて放送
脚本・総監督:長久允
出演:湯川ひな/岡部たかし/倉悠貴/TARAKO 【第1話ゲスト】宮沢りえ/メイリン/菅原小春(全10話)
16歳になったばかりの小池清美(湯川ひな)は、不安や喜びなどが渦巻く感情から、思わず「女って何?」と口にする。その途端、清美の頭の中で、「女のうた!レイディオFM999、始まるよ」とDJ(TARAKO)の声が聞こえだし…。