本作を観ると、何が善で何が悪なのかを考えさせられます。真っ当に生きようとしても生きられない環境下で、家族思いのネッドはだんだんと犯罪者の道へと進んでいきます。でも、彼が1人の人間として母やきょうだい、恋人と向き合う姿を観ていると、少年の頃に彼の中にあったピュアな部分はずっとなくなっていません。彼はカリスマ性がありながらも脆さがあって、だからこそ必死で強くなろうともがく姿を観ると親近感が湧いてきます。周囲にいる弱くてずるい大人達を見てきたネッドは彼なりに立派な大人になろうとしたのでしょう。そして、彼は生きるために闘っていただけであるように見えます。その姿は現代の格差社会にも通じていて、私達の身の回りにもこういった状況があってもおかしくないリアルさを感じます。
本作ではネッドを始め、ドレスを着た男性達が武器を手に警官達に立ち向かう場面もあり、一見ネッド達はクレイジーな集団として映りますが、彼等の一見不可解な行動には、ある意図と主張があるという描写も印象的で、世の中には見た目だけでわからないことがたくさんあると改めて感じます。
そして、本作にはジョージ・マッケイ、ニコラス・ホルト、ラッセル・クロウ、チャーリー・ハナム、トーマシン・マッケンジーといった名優達が揃っているのも見どころ。ジョージ・マッケイは愛と怒りを同時に抱えたネッドの複雑な心情を見事に表現していて、ニコラス・ホルト、チャーリー・ハナム、ラッセル・クロウはそれぞれタイプの違う毒性のあるキャラクターを好演しています。ネッド・ケリーについては、ヒース・レジャー主演の『ケリー・ザ・ギャング』やミック・ジャガー主演の『太陽の果てに青春を』などもあるので、比較してみるのもおもしろそうです。
ロマンチックなムードにしてくれるタイプの作品とはいえず、少々過激なシーンもあるので、デートで観るよりはこういうジャンルの映画が好きな友達を誘って観るほうが気楽に楽しめるでしょう。2人とも興味があればデートで観るのもアリですが、露骨に映らないまでも性的な表現がちらほらあるので、初デートには向いていないと思います。
ネッドの少年時代から描かれていて、子どもからすると大人の世界はどう見えるのかという点で皆さんもネッドに共感できる部分があると思います。ただ、PG-12ということもありますが、残酷な描写も出てくるので、中学生くらいになってから観るほうが良いと思います。19世紀のオーストラリア、イギリスがどんな関係にあったのか調べてみるとちょっと社会科の勉強にもなりそうです。
『トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング』
2021年6月18日より全国順次公開
PG-12
アット エンタテインメント
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TEXT by Myson