フランス人作家アニー・エルノーによるベストセラー恋愛小説の映画化『シンプルな情熱』。今回はその主人公エレーヌ役を演じたレティシア・ドッシュさんにリモートインタビューをさせていただきました。エレーヌのように既婚男性と恋愛をすることについてや、ベッドシーンの撮影について伺いました。
<PROFILE>
レティシア・ドッシュ:エレーヌ 役
1980年9月1日フランス、パリ生まれ。俳優、ダンサー、作家、演劇監督として才能を発揮している実力派。パリの演劇学校を経て、スイス・ローザンヌの舞台芸術高等教育学校にて学ぶ。2009年、“Complices(原題)”で長編映画デビュー。2012年、短編映画“Vilaine fille, mauvais garcon(原題)”に出演し、フランス国内の映画祭で多くの賞を受賞。2017年には、カンヌ国際映画祭のカメラ・ドール受賞作『若い女』で主人公を演じ、2018年のリュミエール賞有望女優賞を受賞した。その他の主な出演作に、ジュスティーヌ・トリエ監督作『ソルフェリーノの戦い』、クリストフ・オノレ監督作“Les Malheures de Sophie(原題)”、ギヨーム・セネズ監督作『パパは奮闘中!』などがある。『シンプルな情熱』では、主人公のエレーヌ役を好演。
肉体の交流があるからこそ、恋愛に光が差す
シャミ:
原作は、作家のアニー・エルノーさんによる自身の実体験が綴られた作品ということですが、初めて原作を読んだ時に1番魅力を感じたのはどんな点でしたか?
レティシア・ドッシュさん:
実はこの映画が決まる前から、ずっとアニー・エルノーの作品を読んでいました。毎回やらしい作品だなと思うのですが、ちょっと胸が傷むような感覚もあるんです。彼女の作品には、恋人や両親との関係、それから中絶の話を描いた作品もあり、今回は男性との恋愛関係について描かれていましたが、私達が普段意識していないものが目の前に突きつけられるので、困惑しつつも毎回すごく感動します。
シャミ:
本作は原作者の経験が映画化されているということですが、エレーヌを演じる上で、難しかった点はありますか?
レティシア・ドッシュさん:
簡単でもあり、難しくもありました。簡単だというのは、脚本自体が使用説明書のようにすごく明確に主人公の行動が書かれていて、その通りにやれば良かったので、体現すること自体はあまり難しくありませんでした。難しかったのは、それが実在するアニー・エルノーの話であることはもちろん、女性としての感情表現に苦労しました。エレーヌの経験は、私の人生にも思い当たる部分があるので、それをもう一度追体験するように演じるということは、とてもキツかったです。でも、とても大切なことだと思って演じました。
シャミ:
今回はベッドシーンも多くありましたが、どれもとても美しいシーンばかりでした。ベッドシーンを撮影するにあたって、意識したことや監督と話し合ったことがあれば教えてください。
レティシア・ドッシュさん:
ベッドシーンというのは、恋愛の一部なわけですから、あって良かったと思います。男性と女性に肉体の交流があるからこそ、恋愛に光が差すと思うんです。実は原作だと、あまりベッドシーンの描写はなかったのですが、脚本にはしっかりと描かれていたんです。監督は私の前にもキャスティングでたくさんの俳優と会ったそうですが、皆さんベッドシーンに躊躇して受けるのを嫌がる人もたくさんいたようです。私が受けた時も、単刀直入に「ベッドシーンがいっぱいあります」と言われたのですが、私は「それはとても素晴らしいことだわ」とストレートに返しました。ベッドシーンは8シーンくらいあるのですが、エレーヌとアレクサンドルの状況がその時々で変化する様子が描かれていて、2人の関係性が明確に示唆されていたのが本当に素晴らしくて、重要なシーンだったと感じます。
シャミ:
なるほど〜。レティシアさん自身の思い切りの良さもすごく映画にも反映されていたように感じました。
レティシア・ドッシュさん:
特に思い切りや勇気が必要だったのは、エレーヌの思いを表現する部分だったと思います。あの人が恋しい、寂しいという部分です。ベッドシーン自体は、それほど難しくなかったのですが、原作ではアニー・エルノー自身が自分のことをすごく正直に描いていたので、私がエレーヌを演じる上でもその正直さを出す必要がありました。だから、彼女が苦しんでいることを自分でも実感して出すことのほうが勇気のいることだったんです。それから、愛の狂気性という部分と、少し妄想するような彼女の頭の中で起きていることを体現することが大変でした。
シャミ:
エレーヌがアレクサンドルにハマっていく様子は、まさに恋は盲目という感じで、共感できる部分もありつつ、客観的に観ると「そんなにハマらないほうが良いのに」と思ったのですが、レティシアさんご自身はエレーヌに共感できた部分はありますか?
レティシア・ドッシュさん:
彼女のように激しい情熱がやってきたら、選別するのではなく、パッケージのように全部受け取らないといけないと思うんです。だから、幸せな瞬間もあれば、リスクを取らないといけない時もあります。でも、いつか必ずリスクから抜け出すことができると思うので、やっぱりどんな時でもリスクは取るべきだと思います。
シャミ:
セルゲイ・ポルーニンさんが演じたアレクサンドルは、ルックスはもちろん、どこかミステリアスな雰囲気もある魅力的な男性でした。レティシアさんご自身は彼のような既婚男性をどう思いますか?
レティシア・ドッシュさん:
やっぱりそれぞれ責任を持たないといけないと思います。奧さんと別れるor別れないというのは、男性の責任で私の責任ではありません。私はその相手を愛することでリスクを取っているわけです。実は私もエレーヌと同じような経験をしたことがあります。もちろん誰にも辛い思いをさせたくないという気持ちはありましたが、それがたまたま既婚の男性だったらそれも仕方ないと思います(笑)。
シャミ:
エレーヌには、母親、教師、友人、恋人としてのさまざまな面があり、だんだんとそのバランスが恋人に傾いていく様子が映し出されていました。どんな人にもいろいろな側面がありますが、レティシアさんご自身はそういったバランスを保つために気を付けていることなどありますか?
レティシア・ドッシュさん:
私自身はすごく仕事人間なので、バランスを取るのがすごく下手だと思います。だけど、男性より女性のほうが、その時々によってバランスの取り方が変化しますよね。一時期は家庭のこと、あるいはキャリアのことを一生懸命やる時もありますが、突然他のことにエネルギーを向けたい時も来ることがあります。だから、すべてをバランス良くではなく、今はこれ、今度はあっちと一生懸命やって、人生全体の中でバランスを取っていくことが大切だと思います。
シャミ:
すごく勉強になります。
レティシア・ドッシュさん:
これも経験よ(笑)!
シャミ:
本作では、パリやフィレンツェ、モスクワなどの場所が映し出されていましたが、お気に入りの場所や、旅行する時のオススメスポットがあれば教えてください。
レティシア・ドッシュさん:
アルプス山脈はご存知ですよね。フランスには、“アルプスが2つある”という意味のレドゥザルプという村があるんです。以前そこで映画を撮ったことがあるのですが、冬は雪山でスキーもできて、雪がない時は、散策するのに最適なんです。森も川もあって、素晴らしい景色が目の前に広がるので、そこがオススメです。
シャミ:
大自然も素敵ですね!
レティシア・ドッシュさん:
日本にもたくさん山がありますし、レドゥザルプのような景色の山がいっぱいありそうですね。
シャミ:
国が違うとまた雰囲気も変わると思いますし、ぜひいつか日本の山にも来てみてください。
レティシア・ドッシュさん:
ぜひ行ってみたいです。
シャミ:
では最後の質問で、これまでで1番影響を受けた作品、もしくは俳優や監督など人物がいらっしゃったら教えてください。
レティシア・ドッシュさん:
最近の映画ですが、『アナザーラウンド』というトマス・ビンターベア監督の作品がおもしろかったです。大学の教授があるデンマーク人の理論を発見するのですが、その理論は、人間の体内の血中濃度でアルコールが足りていないと幸せになれない、アルコール濃度が高くなると幸せになれるというもので、それを知った大学教授は、「僕ももっとハッピーになりたい」とアルコールを飲んで幸せになろうとするんです。この監督は、いつも悲劇と喜劇が同居するような物語を映画化していて、今回も1つのテーマというより、主人公の家族や教育を問うようないろいろなテーマを扱っているんです。
シャミ:
本日はありがとうございました!
2021年6月15日取材 TEXT by Shamy
『シンプルな情熱』
2021年7月2日より全国公開
R-18+
監督:ダニエル・アービッド
出演:レティシア・ドッシュ/セルゲイ・ポルーニン/ルー=テモー・シオン/キャロリーヌ・デュセイ/グレゴワール・コラン
配給:セテラ・インターナショナル
パリの大学で文学を教えるエレーヌは、ミステリアスな魅力を持つアレクサンドルと出会い、恋に落ちる。今まで通り大学での授業をこなし、読書も続け、友人とも会っていたエレーヌだったが、彼と関係を重ねるたびにどんどんのめり込み、心はすべてアレクサンドルで占められていく。そんな状況下で彼からの電話をひたすら待ち続けるなか、エレーヌが最も恐れていたことが起きてしまう…。
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