まず、久々にジェニファー・ハドソンのパワフルな歌声が聴けて感動。彼女が本作で演じたアレサ・フランクリンについては名前は聞いたことがありましたが、どんな歌を歌い、どんな背景がある方なのかは知らなかったので、本作で「あの曲も、この曲も彼女が歌ってたんだ!」と知って興味が湧きました。
アレサ・フランクリンは説教師として有名な牧師を父に持ち、マーティン・ルーサー・キング牧師とも親交があったことが本作で取り上げられています。彼女が歌手として活動していた時期と、キング牧師が率いたアフリカ系アメリカ人のための公民権運動の時期は重なっており、アメリカ史として観ても興味深い内容です。
そして、深く掘り下げられてはいませんが、彼女がまだ子どもの頃に起きた恐ろしい体験も描かれていて、人種問題だけでなく、女性がとても弱い立場にあったことも伝わってきます。そんな厳しい状況下で何とか歌手として成功しようともがくなかで名曲が生まれ、アレサ自身も力と自尊心をどんどん得ていく様子からは勇気がもらえます。また、本作はただのサクセスストーリーで終わらず、かといって苦労話に徹しているわけでもなく、彼女が本当に探していたものに辿り着く過程を描いている点で一層共感できます。彼女にとって歌はどんな存在だったのか。広い意味で大切にしているもの、大好きなものがある人皆に通じるストーリーとなっています。
恋愛も重要な要素として描かれています。その場を乗り切るために自分が折れて、パートナーを立てるアレサの姿にもきっと共感できるでしょう。一方で、それでもやっぱり限界があることも描かれているので、今自分ばかりが我慢したり妥協しているなと悶々としているなら、2人で一緒に観てみると現状を客観視してもらえるところがあるかもしれません。もしくは1人でじっくり観て、今の関係を見つめ直すきっかけにするのも良さそうです。
歌の才能に恵まれ、スターになっても、それで終わりではありません。誰もが最初は富や名声を求めて頑張ると思いますが、その先にあるものも見せてくれるストーリーです。そもそも自分が歌っているのはなぜなのか、何のために歌っているのか、彼女の目線で観てみてください。皆さんも得意で楽しいことに今取り組んでいるかもしれませんが、上を目指せば目指すほど楽しいだけではいられなくなると思います。そんな時に原点に戻る大切さを教えてくれる1作です。
『リスペクト』
2021年11月5日より全国公開
ギャガ
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TEXT by Myson