冒頭のナレーションにあるように、これは大ヒットミュージカル”RENT”を生んだ作曲家、脚本家のジョナサン・ラーソンが、トニー賞、ピューリッツァー賞を受賞する前、そして彼が亡くなる前のお話です。30歳の誕生日を目前にし、新作の成功に賭けているジョナサン(アンドリュー・ガーフィールド)の奮闘、苦悩が描かれています。彼自身がステージ上で過去を振り返りながら語り歌うシーンと、ドラマのパートが織り交ぜられた構成のミュージカルとなっています。
日常の些細なことでもすぐに歌にしてしまうジョナサンでも、新作に関しては行き詰まり、なかなか曲作りが進みません。常に頭の中は新作ミュージカルの試聴会のことでいっぱいで友達や恋人のことを気にかける余裕もなく、どんどん試聴会の日が近づいてきます。そしてお金もどんどん減り、そんな日々のなかで不安と希望の狭間で苦しみもがく姿が映し出されています。
芸術の世界で食べていけるようになるのは一握り。周りにいた仲間もどんどん夢を諦め、他の仕事に就いて安定的な生活を送るようになるなか、彼も明日の生活の心配も出てきて、大きな不安にかられます。どちらが良いという話ではありませんが、芸術の世界に限らず、安定よりも夢や目標を実現するためにリスクを取ったことがある方、今まさにその渦中にある方によっては、ジョナサンの姿を自分に重ねずにいられないと思います。一方で就職した親友マイケル(ロビン・デ・ヘスス)の視点も印象的で、いろいろな角度から人生を見つめ直すきっかけをもらえます。
また、作品を生み出す苦しみもヒシヒシと伝わってきて、ジョナサンの作品は当時前衛的過ぎると思われていたことからも、どんなに才能があっても世の中がそれに追いついていなければ日の目を見ずに終わってしまう名作もたくさんあるのだろうと実感します。このような苦悩の日々をベースに描かれている一方で、ジョナサンは明るく前向きでもあり、彼が作り出す曲は楽しくて自由です。彼が働くカフェにブランチを食べにやってくる客を歌った”日曜日”という曲が個人的に気に入りましたが、皮肉が混じった歌詞がクスッと笑えます。
本作は、若くして亡くなったジョナサン・ラーソンの素顔を観られるという点にも魅力があり、彼が作ったさまざまな曲に触れられる点にも魅力があります。また、クリエイティブな仕事をしている方は特に共感できるでしょうし、良い刺激をもらえると思います。そして、時間は限られていて、誰にとっても人生の時限がいつくるのかわからないという点で、今を必死に生きなければと思わせてくれる作品です。改めて映画の『RENT/レント』も観てみたくなりますが、本作も折に触れて今後も繰り返し観たい作品です。
ロマンチックなシーンもありますが、皆が普段目を背けているであろう恋愛の一面に迫る歌詞のミュージカルシーンも出てきます。感度が高い方が恋愛中に観た場合、良くも悪くも今の恋愛を深く見直すきっかけになる可能性があるので、デートで観るよりは1人でじっくり観るほうが良いと思います。夢と恋愛の両立ができるのかと悩んでいる方も感情移入しながら観てしまうと思うので、1人で観るほうが良さそうです。
PG-12に相当する作品で、内容的にも将来を意識し始めるくらいになってから観るほうがキャラクターの心情を一層理解しやすくなると思います。特に高校生、大学生になると、だんだん将来のことがリアルになってきて、現実的な考え方も出てくると思います。そういった意味で将来をシミュレーションしたり、友達との関係性の変化も一例として観られるので、ティーンの皆さんにも興味深く観られると思います。ジョナサン・ラーソンってどんな作品を作った人なのかを知るために本作を観る前か後に映画の『RENT/レント』を観るのもオススメです。
『tick, tick… BOOM!: チック、チック…ブーン!』
2021年11月12日より全国公開/11月19日よりNetflixにて全世界独占配信中
PG-12相当
公式サイト
TEXT by Myson