2016年1月6日、ニューヨーク・タイムズ紙に掲載された記事をきっかけに、環境活動家でもあるマーク・ラファロが主演、プロデューサーを兼任し本作が映画化されました。その内容とは、米ウェストバージニア州で起きた環境汚染問題をめぐり、1人の弁護士が十数年にもわたって大手化学メーカー、デュポン社と闘ってきたというもの。
まず、その地域の環境汚染の原因となった物質がいかに周辺の動物に害を与えてきたかがかなり衝撃的な描写で映し出されます。次に当然ながら動物だけでなく人間の生活にも大きな影響を及ぼしていることが明かされ、もう観ていて怖くて怖くて仕方がありません。巨大企業の中には利益のためにここまでやるところがあるのかという怖さはもちろん、これは遠いアメリカの一地域の話ではなく、世界中で使われているデュポン社のヒット商品に関わっていて、私達日本人も知らずに危険にさらされていたという怖さもあります。さらに映画化の基となった記事が出たのは2016年、私達が映画でこの事実に触れるのは今(2021年末)ということで、ずっと何も知らずにその危険にさらされていたと思うと、映画だけの話では済まされません。
誰も引き受けようとしない、誰もが諦めるような戦いに孤独に挑む弁護士ロブ・ビロットの長年の苦労にも頭が下がります。一方、外面は良く、裏で汚いやり口をどんどん繰り出してくるデュポン社には本当に腹が立ちますが、そこで働く社員達も犠牲になっていて、一部の人間の強欲のためにこんなことがまかり通るのかとこの世の不条理を痛感します。クライマックスのロブのセリフも印象的で、世の中にこういうおかしなことが起きていてもそれが放置されてしまう背景には、当事者だけの問題ではなく、私達自身のものの見方や態度にも大きく関わっているのだということを考えさせられます。困っている人に耳を傾ける、異常なことが起きている現実に目を向ける、そういうことってとても大切なんだなと反省の念も浮かびます。そうしたからといって簡単に解決するわけではありませんが、私達一人ひとりが当事者意識を持って、社会問題、環境問題、さまざまな問題を知ろうとするところから始めなければいけないのだなと感じました。世界中の99%の人がこの汚染にさらされたという衝撃的な事実があるので、皆さんも本作を観て何が世の中で起きているのか知っておくべきだと思います。
巨大企業を相手にすべてを投げ打って戦い続けるロブ・ビロットもスゴいですが、彼の妻サラ(アン・ハサウェイ)も大変な苦労を味わったのが本作から伝わってきます。夫が心配だし、子ども達がいる生活も不安になるなかで、どこまで相手を支えられるのか。ロブ達のような事態までではなくてもこういう立場に追い込まれた時にどうしたいか、どうあるべきか、本作を観ると客観視できる部分があると思います。ここはハッキリ価値観が分かれるところかなと思うので、夫婦だけでなく結婚を念頭に入れているカップルも敢えて一緒に観て語り合うと将来を占えるかもしれません。
裁判の駆け引きの部分はキッズにはまだ難しそうなところがありますが、全体的には何が起きているか理解できると思います。これは実話であり、似たようなことは世の中で他にも起きているので、ぜひ社会勉強としても若い世代の方に観て欲しいです。人間としてどうありたいかというのも考えさせられる内容なので、お手本にできる大人、反面教師となる大人、いろいろな大人をよく観察してください。
『ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男』
2021年12月17日より全国公開
キノフィルムズ
公式サイト
TEXT by Myson
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