実在した伝説のバレエダンサー、ルドルフ・ヌレエフが、パリ公演のため初めて祖国のソ連を出国し、とあるきっかけで亡命するまでを、過去の回想を交えて描いた作品。監督は名優レイフ・ファインズが務めており(出演もしています)、本作は監督3作目となりますが、20年の構想を経て、ようやく映画化が実現したとのことです。そんな本作で主人公ルドルフを演じたのは、バレエダンサーとして輝かしい経歴を持ち、本作で俳優デビューを飾ったオレグ・イヴェンコ。そして、パリ公演中にルドルフと同じ部屋を使うダンサーのユーリ・ソロヴィヨフを演じたのはセルゲイ・ポルーニン。セルゲイ自身、破天荒なダンサーとして有名ですが、さらに彼は13歳でルドルフ・ヌレエフ財団から奨学金を得て英国ロイヤル・バレエ学校に入学しているという縁もあり、気の利いたキャスティングが嬉しいですね。劇中には舞踏シーンも豊富ですが、本物のバレエダンサーが演じているので、すごく見応えがあり、身体のラインも彫刻のように本当に美しいので見とれてしまいます。あと、『アデル、ブルーは熱い色』で主人公アデル役に体当たりの演技で挑んだアデル・エグザルホプロスがすごく大人っぽくなっていてビックリ。本作ではルドルフの運命を握るキーパーソンを好演しています。
本作にはバレエダンサーとして生き残ることの過酷さ、社会主義国の国民であることの意味、自由、LGBTQと、さまざまなテーマが描かれている点も興味を引くポイントです。でもそれぞれのテーマが主張し過ぎることがなく、観る側が何を軸に観るかを選択する余地を残す描写となっています。私は特に社会主義国に生まれたルドルフが、自由を得たいともがく姿に共感しましたが、「国に生かされ、国のために生きる」という感覚って、こういうことなのかと、本作を通してより具体的にイメージすることができました。社会主義国を否定、肯定するというのではなく、生まれた国、環境、経験すべてが今に繋がるということを感じ、考えさせられる作品です。
バレエが題材になっているだけでなく、美術館の絵画も登場し、全体的に芸術性に優れた作品なので、デートで観るのも良いと思います。特別バレエに詳しくなくても問題ありません。ただ1点だけ、意外な流れでエロチックなシーンが出てくるので、すごく恥ずかしがり屋の人を誘うと、気まずいムードになる可能性があります。
今の日本では、多くの人が子どもの頃からいろいろな習い事をして、仕事も選べる時代になりましたが、そうではない時代、国があることを本作で知ると、選択肢があることの意味の大きさに気付くことができると思います。ルドルフがなぜバレエダンサーになろうと決めたのか、とてもシンプルでわかりやすく語られるシーンがありますが、逆境こそ力になるのだと感じさせられる部分もあるので、ぜひ生きたい道を選ぶ勇気を本作から得てください。
『ホワイト・クロウ 伝説のダンサー』
2019年5月10日より全国公開
キノフィルムズ、木下グループ
公式サイト
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TEXT by Myson