冒頭から独特の空気がシーンに充満していて、ロケーションが持つ力が伝わってきます。異世界に見えるような場所が舞台となっていて、ロケーションにすごくこだわって撮られたのではないかと思います。タイトルを聞くだけでもいろいろな想像が掻き立てられますが、弟と僕の関係が徐々に明らかになり、そこへさらにアンドロイドの存在がどんな意味を持ってくるのかが描かれると、観る側はゾワゾワっとした感覚に陥ります。
また、何かを内に秘めていて不可解な行動をとる主人公の桐生薫を豊川悦司が見事に演じていて、冒頭からこの世界観にすごく引き込まれます。さらに安藤政信が演じる弟にはつかみどころのなさと怖さのようなものが感じられ、片山友希が演じる少女にはミステリアスなところがあり、それぞれのキャラクターが持つ役割がわかった時に一気にすべてが繋がっていくおもしろさがあります。それと同時にとても切ない気持ちになり、私達の中にも主人公と同じような感覚が少なからずあるように思えて親近感も湧いてきます。
多くを語らずとも伝わる表現方法が巧みで、込められたメッセージは哲学的でありながらシンプルなので誰にでも共感できると思います。また、主人公が抱えている感情は、現代社会で多くの人が抱えているものとも思えて、SNSなどで別の人格を作る感覚と似ているのかもしれません。といった感じで、比喩的に描かれているところにいろいろな解釈をあてて観るのもおもしろい作品となっているので、思考を巡らせながら映画を観るのが好きな方にオススメです。
複雑な人間関係が描かれていて、暗いムードの作品なので、ウキウキして過ごしたい日のデートには向かないと思います。また、見応えはありますが世界観が独特で多少好みが分かれそうなため、相手の好みがわからない初デートなどには不向きでしょう。一方、映画好きカップルにとっては、語りたくなる要素があると思うのでデートで観るのも良いのではないでしょうか。
大人向けのストーリーなので、キッズにはまだピンとこないかもしれませんが、年齢を問わず主人公が抱いているような感覚はあると思うので、興味があれば観てみてください。ただ、ジワジワと何が起こっているのかがわかってくるように描かれているので、ある程度の観察力と理解力は必要です。そういう意味で中学生以上向けかなと思います。「この感覚わかる!」とハマる人はハマるはずです。
『弟とアンドロイドと僕』
2022年1月7日より全国順次公開
キノシネマ
公式サイト
© 2020「弟とアンドロイドと僕」FILM PARTNERS
TEXT by Myson