このストーリーは万国共通そこかしこで起きていそうな夫婦の問題を描いていて、とてもリアリティがあります。夫婦って、ある程度のところまではお互いに関係を取り繕おうと努力するけれど、やっぱり限界があるというのがよく伝わってきます。
夫ローリー(ジュード・ロウ)は大金を稼げる仕事があると言い、妻のアリソン(キャリー・クーン)にロンドンへの移住を提案します。そして、ローリーはロンドンの郊外に豪邸を借り、娘と息子を名門校に入学させます。豪邸は広い敷地にあり、アリソンには馬と馬小屋を用意する大盤振る舞い。でも、ローリーがうまくいくはずと見込んでいた仕事は暗礁に乗り上げ、やがて理想の家族はだんだんと心がバラバラになっていきます。
本作を観ていると、夫婦、親として共に生活していく上で、片方の金銭感覚がおかしくなると、すべてが崩れるということがよくわかります。言われなくてもわかっていることではありますが、やっぱり度が過ぎると愛だの夢だのと言ってられなくなるのも当然だなと痛感させられます。金持ちぶりたい、見栄を張りたいという感覚は、男だから女だからというのとは関係なく、いつの時代にもよくあることです。本作の舞台は1986年ですが、現代でもSNSの普及で承認欲求に火が付いてしまった人の中にはローリーと同じような状況に陥っている人もいるでしょう。また、ローリーのように度を超えて見栄を張るところまでは実際にやらないにしても、そうしてしまいたくなる気持ちはわからなくもありません。野心を抱いて勝負に出たり、一所懸命なのに空回りして余計にどん詰まりになる状況を経験したことがある方は特に、ローリーに何かしら共感できる部分があると思います。
一方、妻目線では、夫を立ててあげたい気持ちと、それを許していたら家族が食べていけずに崩壊するという不安とで揺れる気持ちもわかります。アリソンを見ていると、自分がどうにかしないといけないと思いながらも、夫と縁を切るほうが楽なんじゃないかという考えがよぎってもおかしくないと思えます。でも子ども達がいるので、そんなに簡単に投げ出せないというところで疲労、気苦労も絶えないでしょう。そんな夫婦が最後にどんな結末を迎えるのか、気にならない方はいませんね(笑)。鑑賞中は結構ヤキモキさせられますが、意外に最後はちょっと和ませてくれるので、似たようなお悩みを抱えている方は、ご自身を客観視して冷静になるきっかけに観てみてはいかがでしょうか。そして、ジュード・ロウがとっても良い芝居をしているので彼の演技もご堪能ください。
タイトルからしてカップルでは心穏やかに観られそうにないことはわかると思います。結婚生活の現実を突きつけられる内容なので、まだロマンチックな関係に浸っていたいカップルは、デートでは観ないほうが良いでしょう。将来添い遂げることを視野に入れて付き合っている方は、敢えて1人で観て、いろいろとシミュレーションしてみてください。予防線をはる意味で一緒に観るならば、これを機に思い切ってお互いの金銭感覚について話し合ってみても良いでしょう。
子ども目線で観るといろいろ切ないと思います。両親の喧嘩って見たくないし、お金で揉めてる人間の姿には何だか怖い部分がありますよね。何かしら学べることはあるとは思いますが、もう少し大人になってから観るほうが、リアルにローリーやアリソンの気持ちに感情移入できて、反面教師として一層勉強になる部分があると思います。
『不都合な理想の夫婦』
2022年4月29日より全国順次公開
R-15+
キノシネマ
公式サイト
©Nest Film Productions Limited/Spectrum Movie Canada Inc. 2019
TEXT by Myson
- イイ俳優セレクション/キャリー・クーン(後日UP)
- イイ俳優セレクション/ジュード・ロウ