タイトルにある“ルッツ”は、主人公が祖父から代々受け継いで使っている小さな木製の漁船のことです。主人公のジェスマークはこのルッツに乗って漁師をしていますが、売れる魚はあまり捕れません。さらに競りでは大きな組織が幅を効かせていて不利な状況に追いやられています。なかなか漁師だけでは家族を養うのが難しい状況にあるなか、生まれたばかりの赤ん坊は発育不良で治療費もかかり、妻デニスの不安も募るばかり。そういったことが1度にプレッシャーとなってジェスマークにのしかかります。そんなとき、ある現場を目撃したジェスマークは、“禁断の果実”に手を出してしまいます。
この一連の過程を観ているだけでも、この世は弱肉強食で「正直者がバカをみる」という状況に胸が痛くなります。だからジェスマークに感情移入すればするほど、自分ならどうするのかと人間性を問われている気がしてきます。また、世界中がコロナ禍で生活に苦しみ、仕事を選んではいられない状況に陥っている人が多いことを思うと、本作のストーリーは余計に誰にとっても身近に感じられるはずです。ジェスマークは息子であり、親でもあり、夫であるという立場だからこそ、あらゆる選択に迫られます。私達は日々小さな選択を積み重ねていますが、追い込まれている時の選択は重みが異なります。一つひとつの選択が運命を大きく変えるような威力があり、その怖さを実感させられます。厳しい現実を突きつける内容なので、観る方によっては身につまされるかもしれません。結末もどう捉えるかは解釈が分かれそうですが、どういう気持ちになるかによって、自分の中に残っている希望を測れるのではないでしょうか。
カップルとしての現実を突きつける内容でもあり、ロマンチックなムードにはなりません。ただ、ずっと連れ添いたい相手となら一緒に観るのもアリでしょう。相手が大事で相手の夢や思いを尊重したいからといって、そうしていられないこともあります。そういうときにどうすべきか、客観視できるストーリーです。単なるカップルから一生のパートナーになりたいなら、避けて通れない話が描かれているので、本作を機に2人で苦難を乗り越えられるかシミュレーションしてみても良さそうです。
キッズにはまだピンとこない内容だと思いますが、ティーンになると親の状況も何となく見えてくるので、大人の葛藤や苦悩を想像できるかもしれません。どんな仕事も安定した収入が得られるわけではないということ、時代の変化によって昔のやり方が通じなくなる仕事があることなど、社会の仕組みも知ることができます。興味を持ったらぜひ観てみてください。
『ルッツ 海に生きる』
2022年6月24日より全国順次公開
アーク・フィルムズ 、活弁シネマ倶楽部
公式サイト
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TEXT by Myson