𠮷田恵輔監督作ということで、絶対心が掻き乱されるのだろうと思いながら観たら、期待通りです。もう胸くその悪さが全開で、人間のクズな部分を寄せ集めてギュッとしたストーリーです(笑)。だからこそ、本作は強烈で切ない。人間の優しさにも限界があるし、人間の劣等感にも限界がある。どこかでブチッとなった時に、人ってこんなに真逆に変わってしまうのだなと怖くなります。そして、これはどんな人間にもあり得る話だからこそ他人事には思えないし、観る側はそれぞれのキャラクターがどう変化していくのか目が離せなくなり、どこかで応援する気持ちになります。
本作は𠮷田恵輔監督の脚本と演出によって、とても現実味を持って観ることができます。また、キャスト達の演技も見事です。善意をことごとく踏みにじられて壊れていく人間の姿を体現したムロツヨシ、屈辱的な立場から成功者へと登り詰めるなかで恩を忘れてどんどん図に乗っていくゆりちゃんを演じた岸井ゆきのをはじめ、脇を固める俳優達も皆素晴らしい。ほんとにほんとにいや〜な気持ちにどっぷり浸かれます(苦笑)。でも、人間が秘めた良い部分も描いている点で、救いを感じるところもあります。
今私達はこんな社会に生きているんだと思うと、何とも複雑な気分にさせられますが、そのなかでもどんな価値観で生きていくのか自分の心に問うことができます。パンチの効いた邦画を観たいなら、ぜひ観てみてください。
人間の暗黒面にフォーカスしているので、鑑賞中はロマンチックなムードにはちっともなれないと思います(笑)。ただ、喧嘩中のカップルやマンネリカップルで、相手の良さよりも相手の嫌いなところに目がいってしまっている状態ならば、自分達を客観視して、我に返るきっかけをくれるストーリーといえるのではないでしょうか。本当はこの人のこんなところが好きだった、本当は私のことを守ってくれていたのに勘違いしてた…と気付くきっかけをもらえるかもしれません。
YouTuber達のきらびやかな一面だけでなく、裏の顔や苦しむ姿もリアルに想像できるストーリーとなっています。承認欲求が行き過ぎて自分を見失っている人達がたくさん出てくるので、反面教師としても観られる内容です。何かに夢中になると視野が狭くなったり、感謝の気持ちを忘れてしまうこともあるとは思いますが、自分や自分を大切にしてくれる人を大事にするってどういうことなのか、本作を観て考えるのは有意義なことだと思います。
『神は見返りを求める』
2022年6月24日より全国公開
パルコ
公式サイト
©2022「神は⾒返りを求める」製作委員会
TEXT by Myson