公衆衛生を専門とし、水質汚染や感染症などの問題に取り組んだ医師、エクトル・アバド・ゴメス博士の実話を、実の息子エクトル・アバド・ファシオリンセが綴ったベストセラー小説『El olvido que seremos(原題)』(2005)。その小説を映画化したのが本作です。5人の姉妹を持つエクトル・アバド・ファシオリンセは、6人きょうだいの中で唯一の男の子で、父(ハビエル・カマラ)と息子だけの特別な思い出が語られています。
まず、大所帯の生活はとても賑やかで、家族のお互いへの愛情が溢れている様子が伝わってきます。また、4人の姉と1人の妹に挟まれながらも、やんちゃでマイペースなエクトル少年の姿を観ていると、ほのぼのとした気持ちになります。前半は全体的に温かいムードに包まれ、観ていてとても和みます。ただ1970年代〜80年代当時、父エクトルの言動は、政治的、宗教的に異端視されていたため、一家は苦難も味わっています。そんな状況で息子エクトルが成長していくにつれ、父を見る目が変化していく様子もとてもリアルに描かれています。
自分の信念を曲げずに生きた父エクトルを息子エクトルの視点で語る本作には、とても優しいお父さんの姿と、近寄りがたい雰囲気をもった医者、学者の姿が描かれています。そして、父エクトルが、愛する息子の将来を思って、時には優しく時には厳しく接する姿も印象的です。この光景は、ストーリーは全く異なりますが、『ニュー・シネマ・パラダイス』を彷彿とさせるものがあります。なので不思議と懐かしさと親近感が湧いてくると思います。
また、『トーク・トゥ・ハー』や『バッド・エデュケーション』などペドロ・アルモドバル監督作でお馴染みのスペイン人俳優ハビエル・カマラがコロンビア映画に挑戦しています。父と息子の物語、家族の物語、人々のために生きた人物の物語…というように、さまざまな切り口でご堪能ください。
家族の物語が中心なので、ロマンチックなムードになるシーンはあまりありませんが、愛情に溢れた物語なので、デートで観ると和めると思います。ただ、切ない展開もあるので、ウキウキ過ごしたい日に観るよりは、2人ともじっくり映画を味わいたい日に観ることをオススメします。
子ども目線で観た親の姿を描いているので、皆さんが観ても共感できると思います。ただ、上映時間が136分と長尺なので、中学生くらいになってから観るほうが集中力を保って観られるのではないでしょうか。子どもの頃に親から教えられるいろいろなことにどんな意味があるのか、客観視できる部分もあります。思春期の皆さんは1人でじっくり観て、親子関係について考えるきっかけにするのも良さそうです。
『あなたと過ごした日に』
2022年7月20日より全国順次公開
2ミーターテインメント(2MT)
公式サイト
© Dago García Producciones S.A.S. 2020
TEXT by Myson