日本、韓国、中国など、国境を超えて異例の大ヒットを記録している一条岬の恋愛小説を映画化した『今夜、世界からこの恋が消えても』。今回は本作でヒロインを支える重要なキャラクターを演じた古川琴音さんにお話を伺いました。本作の泉役を演じる上で大変だったことや、普段からしている役作りの方法について聞いてみました。
<PROFILE>
古川琴音(ふるかわ ことね):綿矢泉 役
1996年10月25日生まれ。神奈川県出身。2018年に俳優デビュー。2019年に『十二人の死にたい子どもたち』にメインキャストの1人として出演し、注目を集める。2021年、『偶然と想像』では、主演の1人を演じ、第19回シネマ夢倶楽部推薦委員特別賞を受賞した。その他の主な出演作に、NHK連続テレビ小説『エール』、ドラマ『この恋あたためますか』『コント始まる』、映画『花束みたいな恋をした』『街の上で』『メタモルフォーゼの縁側』などがある。8月11日放送のNHK特集ドラマ『アイドル』では主演、明日待子を演じる。
人は秘密を持っているほうがおもしろい
シャミ:
最初に本作の脚本を読んだ時、泉にどんな印象を持ちましたか?
古川琴音さん:
泉はすべてを背負い込んでいるので、真織と透の関係が深くなって、真織のことを思えば思うほど泉が苦しくなると感じました。お芝居というのは架空のシチュエーションで演じるわけですが、それに加えて泉は皆に仮面を付けているキャラクターだったので、それは演じる上で大変そうだなと思いました。
シャミ:
実際に演じてみてどうでしたか?やはり同じように感じましたか?
古川琴音さん:
やっぱりずっと苦しかったです。どんなに楽しいシーンだったとしても、泉と同じように俯瞰している自分がいて、泉が今どう振る舞うべきかを常に考えていました。
シャミ:
泉は親友の真織には言えない秘密を抱えている重要なキャラクターでしたが、泉を演じる上で気を付けた点はありますか?
古川琴音さん:
真織を守るというところに泉は存在しているので、真織のことを第1に考えるというのは、ずっと意識していました。だから、ずっと真織の顔を見たり、真織を中心に自分の振る舞い方を変えていて、そこをきっかけに泉について深めていきました。
シャミ:
泉はすごく頼もしい性格で、服装もオシャレなキャラクターでしたが、古川さんご自身と似ているところはありましたか?
古川琴音さん:
私が高校生の頃は校則をしっかり守るタイプだったので、当時の自分と比べると泉は真逆の考え方の子なんです。校則を破るということは、それだけで結構体力のいることですし、泉はそれを表現できるくらい自分の意志をしっかり持っている子だと感じたので、高校時代の私よりもずっと自立していて、周りのことを考えられる大人なんだろうなと感じました。
シャミ:
なるほど〜。ご自身と真逆のキャラクターを演じることは大変ではありませんでしたか?
古川琴音さん:
真織と楽しく高校生活を送りたい、真織が幸せでいて欲しいという泉の目的がはっきりしていたので、そこに集中していたら自然と泉と同じ行動をとることができました。なので、自分とかけ離れているから何かをしなくちゃというよりも、泉の目的に自分が集中していく感じでした。
シャミ:
泉と真織は深い信頼関係が築けている親友で、とても素晴らしい関係だなと思いました。古川さんは客観的に2人の関係をどのように見ていましたか?
古川琴音さん:
真織が記憶をなくしてからの泉は、真織の記憶の代わりになることで、存在意義があったと思うんです。それにしても背負うものが大きすぎるというか、真織の家族からも託されているし、八方塞がりの状況だったので、そこまでできるのはどうしてだろうと考えてみました。泉の台詞で、「両親は離婚調停中だから」という言葉があるのですが、それをサラッと言える心境になれるのは、この物語以前に真織が自分の支えになってくれたことがたくさんあったからだろうなと想像できました。
シャミ:
親友との間に秘密を抱える泉の辛い心情が伝わってきましたが、もし古川さんが泉の立場だったら同じように秘密を抱えられると思ますか?
古川琴音さん:
真織の両親から頼まれていることもあり、“守る”よりも“守らなきゃいけない”という気持ちが大きいので、私も誰にも言えないと思います。
シャミ:
秘密を持つことで、時に誰かに嘘をつく必要もあると思うのですが、本作のケースに限らず、古川さんご自身は秘密を持つことに対してどんなお考えがありますか?
古川琴音さん:
状況次第ですよね(笑)。でも、人は秘密を持っているほうがおもしろい気がしますし、全部を全部自分の言葉にして説明できないほうが魅力的だと思います。
シャミ:
三木監督の作品には今回が初参加だったと思いますが、実際に監督とお仕事をしてみていかがでしたか?
古川琴音さん:
すごく温かい方でした。撮影が始まる前に監督が「泉へ」と書いた手紙をくださって、そこに作品や泉に対しての愛情がたくさん書かれていました。現場でも私がこうやりたいということに対して、すごく親身に耳を傾けてくださり、泉という役をとても大切にしてくれている安心感のもとでお芝居ができました。
シャミ:
お手紙というのは、監督が泉に対して宛てた手紙ということでしょうか?
古川琴音さん:
泉と私宛てです。「うちの泉をどうぞよろしくお願いします」という、嫁入り前の挨拶のような感じでした。
シャミ:
それはとても素敵ですね!本作では、自宅、学校、水族館や公園など、さまざまな場所で撮影をされていましたが、特に印象に残っている場所やエピソードがあれば教えてください。
古川琴音さん:
撮影場所が湘南、藤沢、江ノ島あたりで、実は私の母校にすごく近い場所だったんです。だから、タイムスリップしたような感じがしました。透、真織、泉の3人で新江ノ島水族館に行ってお土産を見ている感じとかも、自分の学生時代に戻れた気がしました。昔の私と泉とは全然違いますが、学生当時の空気感をなぞりながら撮影できたのが個人的には楽しかったです。
シャミ:
本作に“手続き記憶”というワードが登場しましたが、古川さんが今後“手続き記憶”にして習得したいことは何かありますか?
古川琴音さん:
料理です。得意料理ができるようになったら、おばあちゃんになっても自動的に作ることができるだろうし、自分の子どもとか周りにいる人達が喜んでくれそうだなと思います。
シャミ:
良いですね!
古川琴音さん:
お母さんの肉じゃがの味ってずっと変わらないし、それはお母さんにしか作れない味ですよね。なので、料理が良いなと思いました。
シャミ:
古川さんは作品ごとにすごく印象が変わるので、いつも「次はどんな役なんだろう」とワクワクさせてもらっています。普段役に入る時に意識していることや、いつもやっていることは何かありますか?
古川琴音さん:
いつもやっているのは、自分と相手の台詞とト書きを読んだものをボイスレコーダーに録音をして、それを聴きながら覚えることです。あとは、台本を読んで自分が知らない知識とか境遇が出てきたら、本やネットで調べて想像を深める材料にしています。そうするとキャラクターをこうしようと決めなくても、自然と「こういう部分が必要だったんだな」と気づいてキャラが生まれていきます。
シャミ:
古川さんご自身のお話も伺いたいのですが、映画は小さい頃から好きだったのでしょうか?
古川琴音さん:
実はあまり観ていなくて、この仕事を始めてから観るようになりました。学生時代は演劇部だったので、自分がステージに立つということのほうが好きでした。
シャミ:
では、最初から俳優業自体に興味があったということですか?
古川琴音さん:
そうかもしれません。大学時代は英語劇のサークルに入っていて、そのOBの先輩にずっとお芝居をされている方がいて、その方の舞台を手伝った時に特別に役者として出してもらったんです。その時の共演者の方が、「琴音ちゃんは今大学生だけど、今後はどうするの?」と声をかけてくださって、「演劇をやってみたら良いんじゃない?もったいないよ」と、言ってくださり、その時にそういう道もあるのかもしれないと初めて気が付いて、俳優をお仕事としてやってみようかなと思いました。
シャミ:
なるほど〜。英語と日本語の台詞とでは全然違いますか?
古川琴音さん:
全然違います。英語劇は文化的なこともあってジョークが多いんですよ。それは日本人にはない感覚なので、なかなか上手くジョークが言えなかったり、言えても馴染まないから、当時はどう演じれば良いだろうと考えていました。でも、すごく良い勉強になりました。
シャミ:
今後海外のお仕事などで、英語で演じる機会があれば挑戦したいと思いますか?
古川琴音さん:
チャレンジしたいです!当時培った経験もあり、活かしたいことがたくさんあるのでやってみたいです。
シャミ:
ぜひ!楽しみにしています。
古川琴音さん:
ありがとうございます。頑張ります!
シャミ:
では最後の質問で、これまでで1番影響を受けた作品、もしくは俳優や監督など人物がいらっしゃったら教えてください。
古川琴音さん:
私が最初に好きになったのは『E.T.』でした。子どもの時に観て、本当にその世界を信じることができたというか、人間と人間ではない生物との友情にすごく憧れました。私は動物好きなので、動物の表情を読み取ろうとしたり、そういう対人間ではないコミュニケーションがあるということを『E.T.』を通して学びました。今はそういう気持ちになれるような映画を私も作ってみたいと思っています。
シャミ:
本日はありがとうございました!
2022年7月20日取材 PHOTO&TEXT by Shamy
『今夜、世界からこの恋が消えても』
2022年7月29日より全国公開
監督:三木孝浩
出演:道枝駿佑(なにわ男子) 福本莉子
古川琴音/前田航基 西垣 匠
松本穂香
野間口徹 野波麻帆 水野真紀/萩原聖人
配給:東宝
高校生の透は、クラスメイトに流されるまま、人気者の真織に嘘の告白をし、真織は、「お互い絶対に本気で好きにならないこと」を条件にその告白を受け入れる。そうして2人の偽りの恋が始まったが、ある出来事をきっかけに透は、真織が眠りにつくと記憶を失ってしまう“前向性健忘”という病気であることを知る。透は、その日ごとに記憶を失ってしまう真織と、1日限りの恋を積み重ねていくが、実は透にも真織に伝えていないことがあり…。
© 2022「今夜、世界からこの恋が消えても」製作委員会
- イイ俳優セレクション/野間口徹
- イイ俳優セレクション/萩原聖人
- イイ俳優セレクション/福本莉子
- イイ俳優セレクション/古川琴音
- イイ俳優セレクション/前田航基
- イイ俳優セレクション/松本穂香(後日UP)