“家族の物語”にもいろいろあるなかで、本作は新たな視点といおうか、人々が目を向けようとしない家族のある一面を提示する1作です。タイトルやポスタービジュアルの可愛らしさから想像するものとは良い意味で異なるストーリーが描かれていて、最後に「そういう話か!」となるはずです。
物語の舞台は大きく分けて2つあり、1980年代初頭のナポリと、ヴァンダ(アルバ・ロルヴァケル)とアルド(ルイジ・ロ・カーショ)が老夫婦となった時代です。老夫婦になった2人を観て、「あれれれれ?」と驚くのは私だけではないはず。そして、この2人に説教をいろいろと垂れたくなります(笑)。でも、世の中には2人のような状況に無自覚に陥っている人がかなり多いのではないかと感じます。この一家に何が起こるかは本編で観ていただくとして、最初から終わりまで、いろいろな方向に想像が掻き立てられ、上手い具合にフェイクに引っかかってしまう方もいるでしょう。でも、フェイクに引っかかってしまうかどうかで、どんな家族観があるかを自覚できるかもしれません。
想像以上にビターで、観終わった後は何ともいえない複雑な気持ちにさせられます。ただ、こういう正直な物語、表現はヨーロッパ映画の魅力の1つではないかと感じます。ぜひ皆さんも、この混沌とした世界に入ってみてください。
本作に登場するヴァンダとアルドの夫婦を観ていると、物申したいことがたくさん出てくるはず(笑)。「なぜ、そこでそれを言う?」「なぜ、その人にそれを言う?」「なぜ、今それを言う?」というシーンが複数出てきて、反面教師として観られると思います。なので、同じような経験のある方は、間接的に相手に気付かせたい際に敢えてデートで一緒に観るのも良いかもしれません。ただ同時に不穏な空気を招く火種になる可能性もあるので、賭けであることを覚悟しましょう(苦笑)。
子どものうちは本作で描かれているようなことを考えなくてよい環境だったら良いなと思えるストーリーです。本作から多くを学べるのは大人だと思います。でも、予防策として観ることはできる面もあるので、家族を持つことも意識するような恋愛をする年齢になってから観ることをオススメします。
『靴ひものロンド』
2022年9月9日より全国順次公開
樂舎
公式サイト
© Photo Gianni Fiorito/Design Benjamin Seznec /TROIKA ©2020 IBC Movie
TEXT by Myson