『LOVE LIFE』というタイトルで、雨に打たれた悲しい表情の主人公が写ったキービジュアル。どことなくギャップを感じるこの組合せから、本編を観る前にいろいろな想像が掻き立てられます。本作は、矢野顕子の曲“LOVE LIFE”の歌詞から生まれたとされていて、劇中でも同曲が流れています。私はこの曲を知らずに本作を観たので、元のイメージがなかった分、ストーリーに曲がのることでいろいろな解釈を楽しめました。もともとこの曲をご存じなら、それはそれでどんな感覚になるのか試していただければと思います。
この物語は、タイトル通り、愛を描いています。木村文乃が演じる主人公の妙子をはじめとして、登場人物それぞれの愛の物語です。この物語でとてももどかしいのは、目の前に愛があるのに、届かない愛を追いかけてしまうところ。登場人物達のそんな様子を観ていると、人は自分が必要とされていることを実感したい、必要とされていると実感することで自分の存在意義や愛を確かめているのかもしれないと思いました。だから、これは幸せな状況に安住できない人間の辛い定めなのかもしれません。同時に、とても高尚な愛に見えても、相手にとってはただの親切な行為に過ぎなかったり、相手には相手の求めるものが別にあって、愛というよりエゴイズムになっていることに気付かないこともあるのかもしれないと気付かされます。とてもやるせない状況ですが、ここで矢野顕子の“LOVE LIFE”の歌詞が優しく響き、心を癒してくれます。
恋愛関係に限らず、追いかけばかりの愛に疲れている方は本作を観ると、客観視できる部分は多いと思います。切ないストーリーでありながら、新たな視点を得られる部分もあるので、リフレッシュに観るのも良さそうです。
男女の複雑な関係が描かれているので、ラブラブなムードになるというよりも、自分達の関係を客観視して、とても現実的な思考になるのではないでしょうか。でも、もしかしたら普段悶々と抱えていることを打ち明ける機会にできるかもしれません。また、関係が安定してお互いの存在が当たり前になっているカップルは、これを機にたまには言葉や態度でも相手を必要としていることをアピールするようにしてみてはどうでしょうか。
大人向けの内容なので、子どものうちはピンとこないところもあると思います。また、大人の複雑な心境も描かれているので、せめて、中学生くらいになってから観るほうがよりリアルにイメージできるのではないでしょうか。皆さんの世代は矢野顕子の“LOVE LIFE”という曲を知らないと思いますが、親世代、祖父母世代に曲のイメージや解釈を聞いてみるとおもしろそうです。
『LOVE LIFE』
2022年9月9日より全国公開
エレファントハウス
公式サイト
©2022映画「LOVE LIFE」製作委員会&COMME DES CINEMAS
TEXT by Myson