喪失感を抱えて⽣きる男⼥が出会い、お互いの孤独に寄り添いながら少しずつ前に歩み出していく様が描かれている映画『あの娘は知らない』。今回は、本作で主演を飾った福地桃子さんにお話をうかがいました。撮影現場で感じたことや、俳優のお仕事を始めたきっかけについて聞いてみました。
<PROFILE>
福地桃⼦(ふくち ももこ)/中島奈々 役
1997年10⽉26⽇⽣まれ。東京都出⾝。2019年、NHK連続テレビ⼩説『なつぞら』で⼣⾒⼦役として出演し話題となる。出演作に、ドラマ『#リモラブ〜普通の恋は邪道〜』『⼥⼦⾼⽣の無駄づかい』、映画『あの⽇のオルガン』(平松恵美子監督)などがある。2022年は、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』、ドラマ『消しゴムをくれた女子を好きになった』、映画『サバカン SABAKAN』に出演。9月23日公開の映画『あの娘は知らない』(井樫彩監督)では、主人公の中島奈々役を好演。
人と関わることは出会いの連続で、自分が知らない感情に出会える
シャミ:
本作では、喪失感を抱えた男女が出会い、少しずつ前に進んでいく物語が描かれていました。福地さんが最初に本作の脚本を読んだ時は物語にどんな印象を受けましたか?
福地桃子さん:
奈々と俊太郎が過ごす時間は、時の流れがすごくゆっくりなのですが、そのなかで2人の心の動きがしっかりと描かれている作品だと感じました。脚本を読んだ時と実際に撮影をしてみるのとでは広がっていくものが違って、いろいろな発見がありました。外での撮影がたくさんあり、綺麗な景色や自然を通して主人公の奈々の背景を想像することができたように思います。例えば、海で奈々と俊太郎が会話をしているシーンも自分達が会話のリズムを作っているようで、話しながら聞こえてくる波の音や匂いなど、その土地に根づいた自然がリズムを作ってくれたような感覚でした。
シャミ:
本編を観ていても自然の豊かさがすごく伝わってきましたが、実際に行ってみたらより気持ちが良さそうな場所でしたね。
福地桃子さん:
お散歩をしていてもすごく気持ち良かったです。撮影期間中にちょっと休憩をしようと思った時に、海や旅館の周りを歩く時間がとても充実していました。そういうちょっとした時間の積み重ねで、奈々が育ってきた土地を知ることができましたし、そこにいる人達と触れ合うことで、「奈々もこんな風に生活をしていたんだろうな」と感じ、役作りにも繋がりました。自分で意識的に探したというよりも、自然と巡り会えたものだったので、好きなものや落ち着く空間があってほっとしました。
シャミ:
ありがとうございます。奈々はとても辛い経験をしていて、喪失感を抱えている人物でした。奈々を演じる上で難しかったところや、気をつけようと思ったことはありますか?
福地桃子さん:
この企画が始まってから、初めて井樫監督とお会いして、その時に監督が私から感じてくださったことを奈々に投影してくださいました。でも、あてがきだからといって決して簡単だったわけではなく、自分と育った環境や境遇も違う奈々が抱えているものをどうしたら自分の中に存在させることができるのかと思い、立ち止まりました。撮影に入ってから、監督に「何か考えることよりも、自分の中から出てきたものを大切にして欲しい」と言葉をかけていただいたんです。きっと私が奈々と向き合っていることを理解してくださっていて、その言葉を受け取った時に、もっと自分を信じてお芝居をしてみたいと思いました。本作では、奈々と俊太郎の2人のシーンがほとんどで、食卓を囲んで一緒にご飯を食べたり、お散歩をしたり、そういう当たり前の日常を過ごすなかで奈々という人物を見つけていった部分が多かったと思います。
シャミ:
奈々のイメージが福地さんにすごくぴったりだったので、あてがきと聞いて納得しました。監督との最初のお話の段階では、福地さんからこういうキャラクターにしたいなど、要望されたことはありますか?
福地桃子さん:
特に大きくはありませんでした。監督が受け取ったものを私に委ねてくれ、見守ってくれているんだなと思いました。たださっきのお話とも重なりますが、監督が「この言葉は奈々の言葉でもあるけど、福地さんの言葉でもあるからね」と言ってくださり、その言葉がとても心に残っています。
シャミ:
井樫監督は福地さんと同世代だと思いますが、一緒にお仕事をしてみていかがでしたか?
福地桃子さん:
脚本も演出も井樫さんがやられているからなのか、一緒にお芝居をしているなと感じることがありました。あとはとてもカッコ良い方です。井樫さんになら何でも言ってみようと思える環境で、それが特にありがたかったです。撮影が終わってから「あまり同世代の話をしたことがないね」と話していたので、これからできたら良いなと思います。私自身、今回映画作りに脚本から完成するまでこんなに近くで携わる経験も初めてだったので、すごくいろいろな発見がありました。
シャミ:
なるほど〜。奈々と俊太郎の関係は、恋愛とも友情とも少し違う2人にしかない特別な関係のように見えました。福地さんはこの2人の関係をどのように捉えていましたか?
福地桃子さん:
2人の空間が落ち着くなと感じました。この不思議な関係が何とは明確にはわからないのですが、そういう形があっても良いのかなと思えました。人と関わることは出会いの連続で、自分が知らない感情に出会える。いつもは1人で通っていた場所も俊太郎と一緒に街を巡ったことで、奈々も知らなかった街の魅力に気がついたかもしれません。
シャミ:
あと、奈々や俊太郎が抱えている辛い気持ちや喪失感というものは、現実でも経験されている方がいると思います。もし福地さんが奈々の立場だったら喪失感や辛い気持ちとどう向き合いますか?
福地桃子さん:
考えたり悩んだりすることはこの先も必ずあると思うので、自分とも無関係ではないなと感じました。突然何か起こるかもしれないのは、皆同じですよね。何か起きてからの話ではありませんが、常に自分と出会うものに感謝をして、なるべく素直に生きていたいなと思います。だからこそ何か起きた時もその気持ちに蓋をするのではなく、感情に正直でいられたら良いなと思います。
シャミ:
素敵な回答をありがとうございます。では、ご自身のことも伺わせてください。ご家族の影響もあり芸能界が身近な存在だったと思うのですが、福地さんが最初に俳優のお仕事に興味を持ったのはいつ頃だったのでしょうか?
福地桃子さん:
いつ頃か明確にはわからないのですが、年を重ねるごとに自分と向き合うことが増えて、それが興味に繋がっていったんだと思います。私は心の中にある想いを伝えることが得意ではなく、それがもどかしいなと思っていた時期がありました。でも自分ではない誰かの言葉を借りてだったらこの気持ちを言えるのかもしれないと思った時に、俳優に興味が沸きました。
シャミ:
お仕事として俳優をすると決めたきっかけなどはありますか?
福地桃子さん:
元々たくさんのことに興味を持っているわけではなかったので、興味を持ったものを大事にしたいと思いました。なので、その延長線上で今こうやって続けさせてもらっているんだと思います。本当に出会いの連続で、いろいろな感情に出会えるからこそ毎回自分の興味を発見できるんだろうなと感じます。
シャミ:
では、最後の質問でこれまでで1番影響を受けた作品、もしくは俳優や監督など人物がいらっしゃったら教えてください。
福地桃子さん:
影響を受けたというのは難しいのですが、SF作品はすごく好きです。映画に限らず、中学生の時に読んだ本を大人になって読み直した時に、昔自分が感じていたこととは別のことを感じたんです。もちろん大人になってその本の意味がよりわかった部分もあると思うのですが、当時と今とでは気がつくポイントが違ったんだと思います。映画の場合も観る人のその時の感情によって届くものが違うことがあり、それが本当に良い映画なのかなと思います。
シャミ:
本日はありがとうございました。
2022年9月5日取材 PHOTO&TEXT by Shamy
『あの娘は知らない』
2022年9月23日より全国順次公開
脚本・監督:井樫彩
出演:福地桃⼦/岡⼭天⾳/野崎智⼦/吉⽥⼤駕/⾚瀬⼀紀/丸林孝太郎/上野凱/久保⽥磨希/諏訪太朗/安藤⽟恵
配給:アーク・フィルムズ
海辺の町にある旅館で主を務める奈々。旅館の休業中に、愛する⼈を失った俊太郎が「どうしても泊めて欲しい」と訪ねてくる。彼は恋⼈の⾜跡を辿るために、町や海を彷徨っていた。そんな俊太郎の姿を⽬にしていた奈々は、案内役を買って出て、いつしか彼と⾏動を共にするようになり…。
©「あの娘は知らない」製作委員会
©LesPros entertainment
- イイ俳優セレクション/岡山天音
- イイ俳優セレクション/福地桃⼦(後日UP)