もし、あなたが愛する夫が亡くなってから、彼が実は第三者の名前を名乗っていて、本当はどこの誰だかわからないと知ったらどうしますか?本作は、そんな状況からさまざまなキャラクターの人間模様が浮かび上がってくる物語です。文具屋を営む谷口里枝(安藤サクラ)は、店によく買い物にくる男性(窪田正孝)と仲良くなりやがて再婚します。でも、ある日、事故で夫が急死。その後、夫は実は別人であることが発覚します。そして、里枝が身元調査を依頼した弁護士の城戸章良(妻夫木聡)は、彼女の夫が本当は何者だったかを探っていきます。
私はいつもながら前情報を入れずに観たので、入り組んだ人間関係が紐解かれていくのを純粋に楽しむことができました。映画の公式サイトを見ると、意外なほどに人物相関図が詳しく書かれているので、個人的には映画を観る前には公式サイトの人物相関図を見ないほうが楽しめると思います。
シーンの中にも後ろ姿が印象的に映されていますが、それが何を意味するのかを想像しながら観て、クライマックスでハッとさせられます。そして、謎を解くだけのストーリーで終わっていないところが本作の魅力であり、物語の最後の最後に本作の真髄が描かれています。アイデンティティって何だろうと、いろいろな角度から考えさせられるストーリーを、ぜひご堪能ください。
本作をデートで観たら、思わず観終わってからお互いに身元確認をしたくなるかもしれませんね。でも、本作では人が何者かということを単に氏名だけでなく、深いところから問いかけるストーリーなので、お互いにどういうところが好きなのかを改めて考えるきっかけになるかもしれません。ただし、以前から相手は自分のことをあまり語らなかったり、謎が多いということが気になっている方は、一応冗談で「身分証明書見せて」と言って反応を確かめてみても良さそうです(笑)。
お母さんが再婚してできた新しいお父さんは実は別人だったなんて、子どもにとっても大きな衝撃です。本作は、そんな子どもの心情も丁寧に描いているところが印象的です。アイデンティティを模索している真っ只中のティーンの皆さんは、本作の特異なシチュエーションでもアイデンティティって何だろうと考えてみてください。
『ある男』
2022年11月18日より全国公開
松竹
公式サイト
©2022「ある男」製作委員会
TEXT by Myson