改めてジョージ・ミラーって振り幅が凄まじく広いなとリスペクトです。“ハッピー・フィート”から“マッド・マックス”シリーズという幅の広さだけでも驚きなのに、今回はロマンチックかつファンタジックな作品を見事に作り上げています。本作の主人公は、物語論(ナラトロジー)の専門家アリシア(ティルダ・スウィントン)。彼女は講演のための出張で訪れたトルコのインスタンブールで不思議な現象に何度も遭遇します。ある時、バザールで美しいガラス瓶を見つけたアリシアは、それをホテルに持ち帰ります。すると、中から魔人のジン(イドリス・エルバ)が出てきて、彼女に3つの願いを叶えてやろうと申し出ます。でも、アリシアは願い事を慎重に考えたいと答え、まずはジンの身の上話を聞くことにします。
って、願い事を叶えてもらう側が魔人の身の上話を聞くって、設定からしてすごくおもしろいじゃありませんか!さらにおもしろいのは、アリシアが安易にお願い事をしない点です。そんなアリシアがジンの苦労話を親身になって聞いている姿がとてもユーモラスで、劇中劇のさまざまなストーリーもどこかぶっ飛んでいて、そういう意味では、ジョージ・ミラーの“マッド・マックス”シリーズのテンションに通じるものを感じます。
一方で、2人の会話はとてもウィットに富んでいて哲学的。アリシアと同じように、世の中にあるあらゆる“物語”に意味を見出すのが好きな方にはたまらない内容となっています。私もまさにアリシアと同じタイプなので、一言一句逃すまいとして食い入るように観て堪能させていただきました。願い事の本当の意味とその代償、そして愛について、新たな視点を得られるストーリーともいえます。これまた何度も観て振り返りたい1作です。
ヌードも出てきたりしますが、そこまで気まずくはならないと思います。愛についての哲学ともいえるストーリーが含まれていて、ロマンチックな展開もあります。舞台は現実世界ながらも設定上はファンタジーなので、自分達に置きかえて観るような部分がない分、観やすいと思います。お互いを束縛せずに、個の時間を尊重し合えるカップルは特に共感しながら観られるのではないでしょうか。
映画公式サイトによると、本作は「イスラムの説話集 『アラビアンナイト』をモチーフ」にしているそうですが、大人向けの内容となっています。ですので、アラジンなどのお話から一般的にイメージされるものとは少し異なるかもしれません。大人になってから観たほうが、自分自身の人生経験と重ねながら観られる部分もありますが、今は純粋に感じるままに観るのもアリでしょう。
『アラビアンナイト 三千年の願い』
2023年2月23日より全国公開
PG-12
キノフィルムズ
公式サイト
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TEXT by Myson