初監督作『ファーザー』で見事アカデミー賞脚色賞を受賞したフロリアン・ゼレール監督が、自身の戯曲を原作に本作を制作。本作で描かれるストーリーは、家族3部作の第2部だそうです。主演、製作総指揮をヒュー・ジャックマンが務め、アンソニー・ホプキンス、ローラ・ダーン、ヴァネッサ・カービーといった実力派が脇を固めています。ヒュー・ジャックマンが演じるピーターは、再婚した妻のベス(ヴァネッサ・カービー)との間に息子をもうけ、満たされた生活を送っています。そこへ前妻のケイトが突然尋ねてきます。ピーターとケイトとの間には17歳の息子ニコラス(ゼン・マクグラス)がいて、ケイトはニコラスがしばらく学校をサボっていることをピーターに相談します。ニコラスは自分ではどうにもできない不安を漠然と抱えていて、ピーターとケイトは何とか救おうとしますが、事態は思わぬ方向へと向かっていきます。
本作では、青少年が抱える心の問題とともに、家族がどう向き合うかを描いています。10代の子どもがいいようのない不安に押し潰されそうになるなかで、親はどうすべきなのか。子どもを愛するがゆえの行動であっても、それが正しいかどうかは誰にもわかりません。そして、そこには子どもへの愛情とともに親自身が抱えてきたもの、固執しているものが絡んでいることがよくわかります。親であることは素晴らしいことであると同時に、こんなにも難しいことなのだなと実感します。
映画公式サイトに、フロリアン・ゼレール監督の言葉がこう綴られています。「心の問題には必ずといっていいほど、恥、罪悪感、無知が伴う。しかし、そのような感情やレッテルは、重要な会話の妨げとなってしまう。この映画が、心の病に関する様々な対話のきっかけとなることを期待する」と。このレビューを書いている2023年3月15日、偶然見かけたウェブニュースに、2022年の小中高生の自殺者数が514人で過去最多であったというニュースが飛び込んできました。本作の最後にも10代の自殺が深刻な問題であることが記されています。大人は子ども達の未来ばかりを思いやるのではなく、今の彼等をしっかりと見つめて耳を傾けなければいけないと感じます。簡単ではありませんが、大人自身がまず自分自身の姿も客観的に観る必要があることにも気付かされます。本作はエンタテインメントとしての役割を越えて、大切なメッセージを届ける存在であると思います。
重くて深刻なテーマを描いているので、いわゆるデートムービーではありませんが、大切なことが描かれています。本作は親子関係を軸として描かれていますが、これはパートナーとの関係においても重要なことです。一方が心に病を抱えた時にどう支えれば良いのかというのはとても難しい問題です。何か起きない限り、こういう話題は出てこないと思いますが、映画を機に話してみるとお互いの人生観も一層理解できるかもしれないですね。
ニコラスと同じか近い世代の皆さんにとっては、複雑な思いが強く残る作品だと思います。重い内容なので、心が元気な時に観てください。もしも皆さんがニコラスと同じように何か苦しんでいても、大人は我が子は大丈夫、我が家は大丈夫と思って、やり過ごしてしまうことがあるかもしれません。親なんだから子どものことはよくわかっていると思い込んでいる可能性もあります。心の声が届いてないなと思ったら、本作を一緒に観て話すきっかけにしてはどうでしょうか。
『The Son/息子』
2023年3月17日より全国公開
キノフィルムズ
公式サイト
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TEXT by Myson