EOという名の灰色のロバを主人公にしたこの物語は、ロバの数奇な旅を通して人間のさまざまな姿を映し出しています。EOはサーカス団でカサンドラと一緒に芸を披露して暮らしていましたが、あることがきっかけでサーカス団から連れ出されてしまいます。その後も転々とするEOは、訪れる先々でさまざまな人間に遭い、時に振り回されながらも“我が道”を進んでいきます。
映画の公式資料によると、本作でEOを演じたロバは全部で6頭だそうです。6頭のロバの性格はさまざまで予測不能な状況での撮影は大変だったといいます。だから、カメラがロバの動きに合わせていったそうです。劇中では、EOはとても可愛く、賢く映っているのですが、背景にはそういった苦労があったんですね。EOはセリフを言わないながらも何かを語っているような奇跡的なシーンがあります。そんなシーンの数々はこういった苦労から生まれているのだと思うと、なお感慨深いです。
本作では、放浪するEOの周囲に現れる人間の自然な姿が映し出されています。相手がロバだからこそ、人間のそのままの姿が映し出されているように見えて、言葉で語らずとも多くを語っていて見事です。そして、EOの優雅な姿と比べると、人間がとても滑稽に見えてきます。一方、のらりくらりとした展開に気を抜いていたら、突然ショッキングな出来事が起きたり、イザベル・ユペール演じる貴婦人が貫禄たっぷりで登場したり、独特な空気感も魅力です。戦後のヨーロッパ映画界を代表する巨匠イエジー・スコリモフスキ監督による7年ぶりの作品をぜひご堪能ください。
特別デート向けというわけではありませんが、好きな人と一緒に観て気まずいことはないので、2人とも興味があればデートで観るのもアリでしょう。ただ、派手な展開がそれほどないので、普段、起伏が激しい映画しか観ていない方を誘うには向いていないかもしれません。
観て感じ取るタイプの作品で、ファミリー向けの動物映画とは少し違います。EOが可愛くて賢いので、観ていて癒される部分がありつつ、ショッキングな出来事でテンションが急に変わるところもあり、中学生くらいになってから観るほうが良いと思います。
『EO イーオー』
2023年5月5日より全国公開
ファインフィルムズ
公式サイト
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TEXT by Myson