香水の香りをテーマに女性の成長を描いた映画『魔女の香水』。今回は本作で“魔女さん”と呼ばれる香水店の店主、白石弥生役を演じた黒木瞳さんにインタビューさせていただきました。若林恵麻(桜井日奈子)のような悩みを抱える方へのアドバイスや、俳優を続けていく上で大切にしていることについて直撃しました。
<PROFILE>
黒木瞳(くろき ひとみ):白石弥生 役
10月5日生まれ。福岡県出身。宝塚歌劇団に入団し、2年目で月組娘役のトップとなる。卒業後は、映画『化身』(1986)で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。『失楽園』(1997)では、第21回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞し、『破線のマリス』(2000)では日本映画評論家大賞女優賞受賞した。その他の主な映画出演作に『仄暗い水の底から』(2002)、『東京タワー』(2005)、『終わった人』(2018)などがあり、数多くの作品に出演。近年は映画監督として4作品を手掛け、舞台演出をするなど幅広く活躍中。
※前半は合同インタビュー、後半は独占インタビューです。
香りは記憶と1番結びつくと思います
記者A:
黒木さんご自身はこの企画のどんな点に魅力を感じましたか?
黒木瞳さん:
まず香水をテーマとして選んでいる点が日本映画では珍しいので、斬新でおもしろいと思いました。また、弥生がただのアドバイザーではなく、「この香水にはこういう力がある」と、恵麻の背中を押していくところにも魅力を感じました。
記者B:
今回“魔女さん”と呼ばれる弥生を演じる上で意識された点やこだわった点はどんな部分でしょうか?
黒木瞳さん:
香水の力を借りて背中を押すというメッセージがセリフにもふんだに使われていたので、それがきちんとお客様に伝わるように意識しました。ただ今回は、監督の希望もあって白髪でしたので、その容姿に助けられた部分も大きかったです。
シャミ:
弥生とご自身とで似ている部分や特に共感できた部分はありますか?
黒木瞳さん:
似ているところは考えたことがありませんでした。「愛は時間も空間も越えていつでも会える」といったセリフは私には言えません。弥生は愛と孤独の両方を持っている女性なので、本当にすごい女性だと思いました。
シャミ:
とても素敵な女性でした。弥生を演じて黒木さんご自身も参考にしたい点などありましたか?
黒木瞳さん:
メッセージ性は学ぶところが多かったですし、そういう言葉が言えるような人になりたいと思いました。ただ愛に関しては、私はあそこまで一途に思えないので、理想的だと感じました。だからこそ映画として成立してるのであり、弥生の人生を生きて今は満足しています。
記者B:
香りがテーマとなっている作品でしたが、香りを表現するお芝居はどういったアプローチで臨まれましたか?
黒木瞳さん:
「こういう香りなんだ」という言葉の力と監督の演出の力だったと思います。実際に香りを表現することはできないので、例えば「ピンチはチャンス」という香りがどんな香りなのかとお客様に想像していただくしかないですよね。
シャミ:
現場でも香水の香りがしていましたか?
黒木瞳さん:
撮影中は完成形の香りではなかったのですが、香料を調合してくださっていました。今はもう完成しているようです。
シャミ:
物語のキーとなっていたNo.9も作られているのでしょうか?
黒木瞳さん:
今、調合中だと伺いました。とても楽しみです。
シャミ:
完成した香りが気になります!!
記者A:
黒木さんご自身は香水に詳しいのでしょうか?
黒木瞳さん:
詳しくはありません。なぜなら私は香水を2種類しか使ったことがないからです。宝塚時代にイヴ・サンローランのリヴ・ゴーシュを付けていて、今はマダムロシャスのビザーンスを付けています。実は両方とも既に廃盤になっているのですが、あと2本くらいストックがあります。でも、もしなくなってしまったら、今回の映画をきっかけに新しい香水を探そうと思っています。
記者B:
宝塚時代と今とで香りが2種類ということですが、何か変えたきっかけがあったら教えてください。
黒木瞳さん:
香りは記憶と1番結びつくと思います。宝塚時代の香水を辞めた後に付けてみたのですが、やはり現役中のことを思い出しました。宝塚を卒業して、映画やテレビの仕事をしようと決めて東京に来た時に、一度宝塚のことは忘れてゼロから出発しようと自分の中で決めていたので、新しい香りを探そうと思いました。
シャミ:
弥生と恵麻の師弟のような関係がとても素敵でした。黒木さんご自身はこの2人の関係をどのように捉えていましたか?
黒木瞳さん:
恵麻は何かに躓いたり八方塞がりになった時に弥生のもとを訪ねていましたよね。訪ねてくるということは弥生を頼りにして、何か得たいと思っているわけです。弥生としても、自分の元へ来てくれるということはとても嬉しいことだと思いますし、何か自分の持っているスキルを渡したいと考えていたと思います。
シャミ:
もし黒木さんご自身が恵麻のような悩みを持っている方に声をかけるとしたら、何と声をかけますか?
黒木瞳さん:
難しいですね。誰かに相談する時というのは、大体自分で結論を決めていると思うんです。でも、そこに一押しが欲しいから来るわけです。なので、私なら相手が何をしたいのか、どんな心境なのかを探ります。でも、私自身まだ完璧ではないわけですから、今までの経験をもとに今の自分に言えることをアドバイスすると思います。
シャミ:
ありがとうございます!
常に自分に言い聞かせているのは、上手くやろうとか褒められたいと思わないこと
シャミ:
俳優を長く続けていく上で黒木さんが1番大切にしていることは何かありますか?
黒木瞳さん:
常に新鮮な気持ちで役と向き合いたいと思っています。
シャミ:
現場ごとに一度気持ちをリセットするということでしょうか?
黒木瞳さん:
少しは経験を財産にして成長していかないといけませんが、そういう意味ではリセットというよりも積み重ねだと思います。初めて自分の口から出てきた言葉のようにセリフを言えたら良いなといつも思っています。セリフを覚える段階から何回も何回も言い、テストも何回もしますが、本番で本当に今ここから出てきた言葉のように言うことは、気持ちが新鮮でないとダメなんです。それが上手くいく時もあれば、上手くいかない時もあるので、結構反省することもあります。
シャミ:
なるほど〜。初めて自分の口から出てくる言葉のようにするには、かなり役を浸透させないといけないと思うのですが、何か工夫されているのでしょうか?
黒木瞳さん:
どうしたらその人の人生を生きられるのかということを常に考えています。どんな話し方をする人なんだろうとか、自分1人で台本と格闘している時はとにかく想像力を働かせています。芝居は想像力ですので、それが衰えないようにしたいと思います。
シャミ:
今までもさまざまな役を演じていらっしゃいますが、これから挑戦してみたい役などはありますか?
黒木瞳さん:
特別ありませんが、その時に出会える役というのがあるので、30代の時は30代にしかできない役、今なら今しかできない役と出会えるという。そういう意味で役者はすごくおもしろい職業だと思います。
シャミ:
俳優を続けていくなかで昔と今とで大きく変わったと感じるところは何かありますか?
黒木瞳さん:
そこまで壮大なことは考えたことがありませんが、気が付いたら歩いてきたという感じです。
シャミ:
本当に積み重ねですね。
黒木瞳さん:
そうですね。でも、ここまで続けてこられたということに関しては、応援してくださる方も含めて多くの方のおかげなので、本当に感謝しています。
シャミ:
では最後の質問です。これまでで1番影響を受けた作品、もしくは俳優や監督など人物がいらっしゃったら教えてください。
黒木瞳さん:
たくさんいますが、映画では東陽一監督や中田秀夫監督、森田芳光監督、最近では藤井道人監督など、本当にご一緒させていただくだけで身が引き締まります。皆さん一つひとつ教えてくださるので、いくつになっても学びだなと思います。なかなか上手くできない時もあるので、常に自分に言い聞かせているのは、上手くやろうとか褒められたいと決して思わないことです。その時の瞬発力で感情を出すということを考えるようにしています。
シャミ:
本日はありがとうございました!
2023年5月10日取材 PHOTO&TEXT by Shamy
『魔女の香水』
2023年6月16日より全国公開
監督・脚本:宮武由衣
出演:黒木瞳 桜井日奈子/平岡祐太 水沢エレナ 小出恵介 落合モトキ 川崎鷹也 梅宮万紗子/宮尾俊太郎 小西真奈美
配給:アークエンタテインメント
派遣社員として奮闘する恵麻は、正社員になって一流の仕事をすることを目標に頑張っていたが、あることをきっかけに職を失ってしまう。自暴自棄になった恵麻は、夜の街を歩いていたところスカウトマンに連れられ「魔女さん」と呼ばれる弥生の店を紹介される。その店を手伝うことになった恵麻は、弥生に授けられた言葉と香りによって自分の人生を切り拓くのは自分自身だと気づかされ…。
©2023映画『魔女の香水』製作委員会
- イイ俳優セレクション/ 黒木瞳 (後日UP)
- イイ俳優セレクション/ 平岡祐太