昨今国内外問わず、映画業界のハラスメントが明るみに出てきました。本作の公式サイトによると、「英語で匿名の女性を指す “Jane Doe” に由来するジェーンというキャラクターは、数百にも及ぶ労働者へ対して行われたリサーチとインタビューによって監督が得た膨大な知見、とりわけ女性の痛みや混乱の経験から形成されている」とあります。本作で描かれる、映画会社に勤め始めて間もないアシスタント、ジェーン(ジュリア・ガーナー)の1日を観るだけでも、ハラスメントが常態化している現状がうかがえます。
ジェーンが出勤するのは、空がまだ暗い早朝。彼女の仕事はまさに雑務の連続で、会長を始め、周囲のスタッフの世話に追われています。にもかかわらず、彼女が周囲から空気のように扱われている様子も、客観的に観ている私達にとっては異様な光景として映ります。本作はそんなジェーンの仕事ぶりを淡々と描いているだけに見えて、たった1日の間にどれだけストレスのある出来事を経験しているかを映し出しています。また、淡々と描いているからこそ、常態化している会社の異常性が際立って見えます。そして、一見何でもない日常のようでいて、後半にはかなり緊張感が高まる展開があります。そのシーンには問題の根深さが描かれており、ジェーンにも、観る者にも徹底的な無力感を植え付けます。
高い倍率ながらやっと憧れの仕事に就いたジェーンは、会社の汚点に異議を唱えるのか、自分のキャリアを守るために妥協するのかという究極の選択を迫られます。何ともやるせない気持ちにさせられるストーリーながら、自分の価値観を振り返るきっかけになるのではないでしょうか。
ジェーンが体験しているような状況は映画業界に限らないと思います。特に社会人の皆さんにとってはとても身近に感じる内容なので、デートの雰囲気を楽しむ気分は吹っ飛んで、映画に没頭してしまうでしょう。自分の仕事観を振り返るには1人でじっくり観ると良いと思います。一方で、パートナーに仕事の悩みを相談したいと思っている場合は、一緒に本作を観てもらうと話易くなりそうです。
インターンをしている方や就職活動中の方、就職して間もない方は、ジェーンと同じ目線で感情移入してしまうでしょう。ジェーンのように、夢と憧れを胸に高い倍率を勝ち抜いて就職したものの、「思っていたのと違う!」という状況に陥る可能性はなきにしもあらずです。やりたい仕事に近づけて、その企業は出世するのには有利で、でも企業環境が最悪で…となった時、あなたならどうしますか?本作はあなたの仕事観を確かめる上で、良いシミュレーションになると思います。
『アシスタント』
2023年6月16日より全国公開
サンリスフィルム
公式サイト
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TEXT by Myson