私はシモーヌ・ヴェイユの数々の功績を本作で知りました。これほどの功績をあげた政治家は世界中を見ても稀なのではないでしょうか。彼女には他の政治家とは比べものにならない信念と熱意があります。彼女が政策を実現しようとする背景には壮絶な過去がある点にも驚かされます。ユダヤ人のシモーヌは、10代でアウシュビッツの強制収容所に入れられ、大変苦しい経験をしたサバイバーです。生き延びた強さがあると同時に生き延びた罪悪感が彼女をずっと苦しめています。子どもの頃から聡明さを発揮していた彼女は、大好きだった母の教えに従い、自立した女性となるべく勉学に励み、社会に貢献する仕事に就きます。若かりし頃から弱い人間の尊厳、権利を守ることに使命を感じて行動する姿には並々ならぬ覚悟が滲み出ていて、本当に尊敬します。
本作はシモーヌが自身の回顧録を残そうとする過程で過去に向き合う視点で描かれています。だからかなりプライベートな内容に踏み込み、彼女にとって思い出すのも苦しい出来事が明かされていきます。ナレーションには、記憶と歴史は異質なものであるいう言葉がある点でも、彼女が政治家である前に1人の人間として、どう生きてきたかが語られていることがわかります。これは私の個人的な解釈ですが、彼女は政治家になりたかったというよりは、世界を本気で救う意志があったからこそ、それを実現するために政治家になることを選んだのだと感じます。国内外の選挙や政治家の言動を見ていると、その多くは口先では利他的であっても、実質は利己的です。世の中を変えたいというよりも自分が政治家になりたいだけの人が多いようにも思います。本作を観ると、政治家が本来あるべき姿がわかります。映画ファンはもちろんのこと、本作はぜひ政治に関わる方々に観ていただきたいです。
今よりもっと男性社会であった時代から、周囲の無理解にひるむことなく社会問題の数々を解決していったシモーヌの物語は、現代を生きる多くの女性の心に響くでしょう。さらに彼女は3人の子どもを育てながら、多忙な日々を送っていました。そこで、シモーヌと夫のパートナーシップは、どうなっていたか気になる方もいると思います。一生添い遂げたいと考えている相手がいる方は、本作を一緒に観ると自分達のパートナーシップを客観視できるし、感想を述べあうことでお互いの人生観を知るきっかけにできそうです。
多忙なお母さんは家に不在になりがちなので、子どもからすると寂しいのは当然です。でも、お母さんが世の中を良くするために一生懸命働いていたら、少し感じ方は変わるかもしれません。寂しいことに違いはありませんが、何もわからないよりは、お母さん目線で物事を見てみると少し気が楽になる部分があるでしょう。忙しいお母さんの日常を覗くような感覚で観てみてください。ただし、本作は時代が行ったり来たりするので集中力が必要です。内容的にも中学生以上が対象かなと思います。
『シモーヌ フランスに最も愛された政治家』
2023年7月28日より全国順次公開
アット エンタテインメント
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TEXT by Myson
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