クスッと笑える冒頭シーンから序盤までは、ダリ(ベン・キングズレー)と妻のガラ(バルバラ・スコヴァ)の破天荒な暮らしぶりに驚かされながら、全般的には切ないラブストーリーといえます。アーティストとして生きるダリの成功と苦悩の裏には、妻ガラがいて、ガラの存在が支えでもあると同時に悩みの種でもあります。ダリのミューズであるガラは、マネージャーとしてもダリを支えますが、一方で若い歌手に大金を貢いでいます。ダリも若い美女を脇に置き、夫婦はお互いにやりたい放題でバランスを取っているように見えながら、それぞれに孤独を簡易的に埋めていて、特にダリにとってはガラでなければ埋められない部分が多いことが伝わってきます。ガラはガラで自分の存在意義を確かめているような節もあり、とても複雑な2人の関係が描かれています。
芸術家の創作活動がいかに過酷であるか、芸術家がいかに孤独であるかは、ダリに限らず、これまで制作されてきた他の画家の映画でも描かれてきました。本作は、ダリの妻ガラにも焦点を当てている点で、芸術家のパートナーの苦悩や孤独を浮き彫りにしています。ガラの散財ぶりにハラハラしながら、ふと吐露されるガラの本音を聞くと、彼女の気持ちもわからなくもありません。そして、現代に本作が作られたことで、ガラに対する共感も得られる時代になったのではないかと思える部分があります。ガラが貢いでいたのがお金という点では少し共感にハードルを感じる部分も否めないものの、ダリを影で支えてきたガラの手に残るものがお金しかなかっただけで、もしも違う時代に彼女が彼女自身の才能を別で発揮できることがあったなら、また違った存在の示し方をしたのかもしれません。
本作はジェームズ(クリストファー・ブライニー)という名の美しい青年の目を通して描かれていて、観る方によって感情移入する人物も変わるでしょう。さまざまな捉え方で楽しんでください。
気まずいほどではありませんが、セクシャルな話題も出てくるので、相手の反応が読めない初デートでは避けたほうが良いかもしれません。固い絆で結ばれつつも、歪な関係に陥っている夫婦の物語です。この関係で幸せなのかどうかは本人達にしかわかりませんが、1つの夫婦の在り方として参考にしつつ、自分達の人生観、恋愛観を見直すきっかけにしてはどうでしょうか。
いろいろな経験をして、いろいろな人に出会って、恋愛も経験してから観たほうが、一層本作のストーリーに感情移入できると思います。また、ダリってどんな絵を描いた人なのか知った上で本作を観たほうが、一層楽しめるでしょう。美術に興味がある方はもちろん、クリエイター、アーティストを目指す方も観てみてください。
『ウェルカム トゥ ダリ』
2023年9月1日より全国公開
PG-12
キノフィルムズ
公式サイト
© 2022 SIR REEL LIMITED
TEXT by Myson
本ページの情報は2023年8月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。