嘘だらけの世の中で、不器用ながら正直に生きる家族の姿が映し出された作品。心ない人間ほど性善説を語り、心ある人間ほど人間の悪を無視できず、もがく姿に共感を覚えます。この世は理不尽なことで溢れているけれど、理不尽なことをやる人は理不尽なことに無頓着で、繊細な人間ほど理不尽なことから目を逸せません。そんな状況を目の当たりにさせられるストーリーにやるせなさを感じながら、それでも不器用で正直に生きる主人公の家族がお互いの真相を知ることで救われていく姿に、観ているこちらも救われます。ラブストーリーと家族愛の絡まり具合も絶妙で、か弱いのに強いメインキャラクター達の魅力も抜群です。
そして、やるせなさとユーモアが絡み合うストーリーにリアリティを吹き込む俳優陣の演技が見事!メインキャラクターを演じる松岡茉優、窪田正孝、池松壮亮、若葉竜也、佐藤浩市のユーモアのセンスを改めて感じます。特に佐藤浩市の“間”は神がかっていて、ふいに際どいツボに刺さります。他にも味のある俳優陣が脇を固め、脚本力、演技力、演出力が揃った作品となっています。観る者をリアルにイラつかせ、不安にさせておいて、最後に救いの手を差し伸べる、感情を揺さぶる作品ともいえて、こういう邦画の秀作がより多くの方に届くといいなと感じます。
タイトルからしてどっぷりラブストーリーかと思いきや、どちらかというと家族愛がメインです。ラブストーリーの部分も何だか初々しさがあり、初デートで観ても気まずいということはないでしょう。恋愛対象より先に、相手を人間として好きになるという感覚も伝わってくるストーリーで、恋愛が苦手な者同士で観るにも向いている作品です。
主人公の花子(松岡茉優)が子ども時代に不可解に感じていた家族の黒歴史の真相を知るストーリーなので、本作を観る皆さんにとっても、物事を別の角度から観るきっかけになるのではないでしょうか。また、日々世の中のここがおかしい、大人のここがおかしいと思いながらも、意見をいうと頭ごなしに押さえつけられてしまう感覚に悶々としているであろうティーンの皆さんにとっては共感ポイントも多いと思います。ぜひ観てみてください。
『愛にイナズマ』
2023年10月27日より全国公開
東京テアトル
公式サイト
©2023「愛にイナズマ」製作委員会
TEXT by Myson
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情報は2023年10月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。