1930年代のパリを舞台に描く、クライム・コメディ。稼ぎが少なく、家賃を何ヶ月も滞納している、女優の卵マドレーヌ(ナディア・テレスキウィッツ)と若手弁護士ポーリーヌ(レベッカ・マルデール)は、ある殺人事件に巻き込まれます。これは2人にとって災難かと思いきや、ポーリーヌがあるアイデアを思い付き、マドレーヌは自ら殺人事件の容疑者となります。
意外にも、この殺人事件をきっかけに2人は人生を切り拓いていきます。2人は大胆な方法で、まさに逆境を好機に変えます。大胆とはいえ、その方法は弱い立場の女性による男性社会に対する反撃といえる点が本作の見どころです。「そっちがそう出るなら、こっちは利用してやる!」という女性達の覚悟と開き直りに清々しさを感じつつ、物語の舞台が今から1世紀ほど前にもかかわらず、本作で描かれている性差別、セクハラは現代社会でも根深く残っている実状に対する最大の皮肉にも受け取れます。
少し間違えると誤解を招きかねないスレスレの表現で、女性と男性がそれぞれ置かれている立場をありのままに見せると同時に、多面性も描いている点がさすがフランソワ・オゾン監督です。どちらか一方だけを肯定、否定するのではなく、さまざまな人間の背景を描くことで、何が人間をそうさせているのかに想像を巡らせる演出が見事です。
ナディア・テレスキウィッツ、レベッカ・マルデールのキュートな魅力、ファブリス・ルキーニ、ダニー・ブーン、アンドレ・デュソリエが醸し出す独特のユーモア、そして、ひときわ異彩を放つイザベル・ユペールの貫禄も絶妙にブレンドされています。ストーリーの毒々しさとのコントラストが効いている美しく創作されたクラシックな世界観も合わせてご堪能ください。
本作にはどうしようもない男が複数登場し、恋愛のゴタゴタも描かれています。煮え切らない相手、ワケありの相手と交際中の方は、背景は異なるにしても、自分に重ねてしまって、コメディとして観るよりも、シリアスに観てしまうかもしれません。本作はどちらかというと友達と観るほうが気軽に楽しめそうです。
コメディとして観て欲しい部分と、社会風刺として真面目に捉えて欲しい部分の両方があります。大人のすさんだ世界が舞台となっている点でも、アルバイトを始めたり、就職したり、社会に一歩でも出てから観るほうが、本作で描かれている状況をリアルに感じながら観られると思います。行為そのものは真似すべきではありませんが、理不尽な状況でも負けないマドレーヌとポーリーヌの精神はお手本となる部分もあるでしょう。
『私がやりました』
2023年11月3日より全国順次公開
ギャガ
公式サイト
© 2023 MANDARIN & COMPAGNIE ‐ FOZ ‐ GAUMONT – FRANCE 2 CINÉMA ‐ SCOPE PICTURES – PLAYTIME PRODUCTION
TEXT by Myson
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情報は2023年10月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。