REVIEW
ギャスパー・ノエ監督作品といえば、過激な性描写やバイオレンス描写が特徴的な作品が多いなか、本作は老夫婦の最期を淡々と追った作品となっています。ただし、”ふつう”の映画を撮らない点が、さすがギャスパー・ノエ監督。まず、本作は終始2画面で物語が同時進行するユニークな構成となっています。2画面に映っている人物が同じ場所にいても終始2画面で、微妙に異なるカメラアングルで、それぞれの画面に映る人物を眺めることができます。これはとても不思議な映像体験です。
主人公は、認知症の症状が進行する妻(フランソワーズ・ルブラン)と、心臓の病を患っている夫(ダリオ・アルジェント)。脇役の数もかなり限られています。彼等の身に起こるのは、とても生々しい日常的な出来事であり、時代を問わず万国共通の出来事といえます。だから、日本人である私達でもとても身近に感じられます。そして、一見淡々と描かれているようでいて、老いの怖さはヒシヒシと伝わってきます。人の最期を映す作品には、最期の日々を美しく描いている作品が多い印象があるなか、本作は観る者に媚びへつらうことなく、人間の最期をありのまま生々しく描いています。そこにキャラクター達の人間臭さも染み出ていて、テーマがこれまでの作品と一見大きく違っていても、やはりギャスパー・ノエ監督らしい描写になっています。
本作は、ホラー映画の帝王といわれるダリオ・アルジェント監督が80歳(撮影当時)で初主演を果たしたことでも興味深い作品です。ギャスパー・ノエ監督作品でダリオ・アルジェント監督が主演しているなんて濃過ぎますよね!そんな濃すぎる2つの才能がどんな化学反応を起こしているのか、映画好きなら気にならない人はいないはず。強烈な芸術センスを持つ2人の映画人が、本作を作る上でどんなやり取りをしていたのか想像するのも楽しいです。もちろん、老いや死についてしっかり考えさせられる内容なので、いろいろな観方を楽しめます。
デートで観てムードが盛り上がる内容ではないものの、一生を共にしようと考えているカップルや夫婦で観ると、自分達の未来を一緒に想像できるのではないでしょうか。本作を観て、将来本当にどうなるのかわからない怖さを感じつつ、”うまく”生きていくにはどうすれば良いのか、綺麗事を抜きにして考えるきっかけにするのもアリかもしれません。
祖父母と一緒に暮らしている方にとっては身近なストーリーに思えそうですが、そうでない限り、キッズやティーンの皆さんにはまだピンとこない部分があると思います。大人になって、自分達の親が老いていくのを実感する頃には、いろいろと思うところが出てくるでしょう。
一方、観る人の年齢を問わず、終盤のシーンでは特に”家”にまつわるセリフや描写にさまざまな想像を掻き立てられると思います。死生観に興味がある方は、老夫婦の生活から見えること、ラストシーンの意味など、いろいろな解釈をしてみるのも良いのではないでしょうか。
『VORTEX ヴォルテックス』
2023年12月8日より全国公開
PG-12
シンカ
公式サイト
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TEXT by Myson
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情報は2023年11月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。