REVIEW
何とも見事なストーリー!本作は、マンティコアという神話上の生き物をテーマに用いて、人間の中にある“怪物”の正体を暴き、人間が他の人間を“怪物”として捉える所以を炙り出しています。
マンティコアとは、「西ヨーロッパの中世美術にも広く普及した、エジプトのスフィンクスに似たペルシアの神話上の生き物。人間のような頭、ライオンまたは虎のような胴、ヤマアラシの羽に似た有毒な棘の尾もしくはサソリの尾を持つ怪物で 、人喰い(マンイーター)と伝えられる」(映画公式サイトより)とあります。主人公のフリアン(ナチョ・サンチェス)は、VR空間でクリーチャーを創るゲームデザイナーです。その立場が思わぬ形で、彼の運命を狂わせていく展開が秀逸です。
一見何でもない出来事が彼の中に何かを芽生えさせ、彼は葛藤のなか、ある対処法を見つけ出します。ただ、その対処法こそが議論を呼ぶところで、どこからが“怪物”で、どこまでは“怪物”ではないのかと考えさせられます。本作はなるべく前情報を入れずに観ることをオススメしたく、ここから先の解釈はよろしければ鑑賞後にお読みください。
ここからはあくまで私個人の解釈でネタバレを含みますので、鑑賞後にお読みください。
劇中では、ゲームのおもしろさ、たとえばゲームの中で行われる“殺し”についての議論が交わされます。この議論には、本作の核心に迫るメッセージが潜んでいて、まず、想像だけなら何をやってもOKなのか否かという2つの見方が提示されています。他にも、服を脱がせていくゲームのおもしろさ、とある有名監督のホラー映画を観ていたつもりがDVDのパッケージの中身がポルノ映画だったという会話など、性にまつわる話題も織り交ぜられています。そして、クリスチャンという名の少年(アルバロ・サンス・ロドリゲス)が語った話や描いた絵から、本作ではフリアンこそがマンティコアであることがわかります。ならば、彼の何が“マンティコア”たらしめるのかといえば、彼がこっそりとVR上で創造してしまった“存在”、前述の複数の比喩から、彼の性的嗜好であると考えられます。それは、彼を見捨てたはずのディアナ(ゾーイ・ステイン)が身動きが取れなくなった彼を介護している姿を見て、もう彼を恐れる心配がなくなったからではないかと読み取れます。
フリアンの性的嗜好は社会的に容認されません。彼はそれを理解していて、最初は自分なりの対処法をとっていたともいえます。とはいえ、実在の人物をモデルにした点など倫理的に問題視されるポイントもいくつかあり、正解を出すのは難しい問題を描いています。ディアナがフリアンのクリーチャーの絵を見て褒めるシーンも印象的で、一言でクリーチャーといえども千差万別であり、クリーチャー側にも疎外感や孤独感があるのではという想像を喚起させます。さらに、前述したようにマンティコアは人喰い(マンイーター)であるとすると、フリアンはマンティコアに喰われた側(言い換えると乗っ取られた側)という解釈もできそうです。
本作は比喩を巧みに使いながら、見事に人間の闇と孤独を描いているといえます。皆さんもぜひご自身なりの解釈をお楽しみください。
デート向き映画判定
性描写も出てくるので、初デートや交際ホヤホヤの2人は気まずく感じる可能性があります。一方で、議論のし甲斐があるテーマで描かれている作品なので、一緒に映画を観慣れているカップルなら、鑑賞後に感想を述べあうとお互いの価値観、倫理観を一層知るきっかけにできそうです。
キッズ&ティーン向き映画判定
本作にはキーパーソンとなるクリスチャンという名の少年が出てくるので、彼の視点で本作に登場する大人達を観察してみるのもアリでしょう。同時に、皆さんが自分自身を守るために知っておくことが必要な事柄が取り上げられているともいえます。ただ、PG-12とあるように大人の助言が望まれます。とはいえ、いろいろな意味で説明が難しい部分もあります。比喩を用いて抽象的に描いている点が本作の秀逸な部分であるものの、小学生には解釈が難しいかもしれません。せめて中学生以上になってから観るほうが良いのではと思います。
『マンティコア 怪物』
2024年4月19日より全国順次公開
PG-12
ビターズ・エンド
公式サイト
©︎ Aquí y Allí Films, Bteam Prods, Magnética Cine, 34T Cinema y Punto Nemo AIE
TEXT by Myson
本ページには一部アフィリエイト広告のリンクが含まれます。
情報は2024年4月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。