REVIEW
すぐに咀嚼できない、噛みごたえのある作品です。本作は、異なる3つのストーリーで構成されています。ただ共通してどの章も強烈で、ヨルゴス・ランティモス節が炸裂しています。全部観終わったら、「あれ?1本目ってどんな話だっけ?」となるくらい一章、一章が濃厚です(笑)。映画公式資料によると、ヨルゴス・ランティモス監督は本作についてこう述べています。
この物語は人間の条件と行動についてのすべてだ。アイデンティティ、支配、帰属意識、自由への欲求についてである。(ヨルゴス・ランティモス監督)
キャストには、ランティモス監督お気に入りの俳優が揃っています。この強烈な世界に生きるキャラクターは並みの俳優では務まりません。だから、これだけの名優が揃っているのも頷けます。ジェシー・プレモンス、エマ・ストーン、ウィレム・デフォー、マーガレット・クァリー、ホン・チャウ等が、各章でまったく違った“顔”を披露しています。
どのエピソードも何かがおかしいと感じながら観て、結末で「えぇっ‼︎」となるエピソードもあれば、「⁇?」となるエピソードもあります。どれもクセが強いエピソードで、何かの比喩に違いないと解釈を試みつつも、とにかくもう一回観せてくださいという感覚になります(汗)。
ただどの章も、とても現実的で最もらしいことにも受け入れ難い現実があり、嘘みたいなことにもまともなことがあるという比喩なのかなと捉えました。何がおかしくて、何が正しいのか、私達はわかっているようでわかっていない。そして、あらゆる選択が正しかったのかどうかは、後になってからでしかわからない。そんなことを描いているのではないでしょうか。
ここからはあくまで私個人の解釈でネタバレを含みますので、鑑賞後にお読みください。
第1章の、ひたすら指示に従う男の話は、物事の真意を横に置き、自分の価値観を捨てて、他者の評価を得るために生きている現代人の象徴のように見えます。ご褒美的に上司から贈られる物品もわかる人には価値がわかるけれど、好きでもない人にとっては正直価値がわからないようなものです。でも、ジェシー・プレモンスが演じる主人公ロバートは、世間での相場を鵜呑みにして価値あるものだと信じているように見えます。
第2章では、「そんなことがあるわけない」という先入観が、いかに判断を狂わせるかを実感させられます。ある人物がどんどんあり得ないことをやるにもかかわらず、その様子で本性を見定めようとする逆の立場の人間のほうを問題視してしまう。これって、現実社会でもよくあることだなと、ラストでハッとさせられます。
第3章では、特別な能力を持つ人物をひたすら探し、異様に水にこだわるカルト集団が登場します。この集団では欲まみれの行為が行われつつ、人間の内側にある汚れを物理的に流そうとする儀式めいた行為の両方が出てきます。この章は、自分達の都合の良い戒律の中で生きる人達の排他主義と妄信の怖さを描いているように受け取りました。
ただ、一度観ただけではどの章も咀嚼しきれない感覚で、何度も観ると別の解釈が出てくるかもしれません。ぜひ皆さんもそれぞれに解釈をお楽しみください。
デート向き映画判定
普段から2人でどんなジャンルでも一緒に観ているカップルは良しとして、初デートや初の映画デートで観るのはオススメしません。いろいろな意味で気まずいシーンが出てくると共に、恐らく好みが分かれそうな気がします。逆に2人ともどハマりすれば、会話が弾みそうです。ヨルゴス・ランティモス監督作が元々好きなら一緒に観に行くのもありでしょう。
キッズ&ティーン向き映画判定
18歳になってから観るとして、いろいろなタイプの映画に免疫ができていないと、キョトンとなる方もいるかもしれません。でも、この強烈さで映画のおもしろさに気づき、一層映画沼にハマる方もいそうです。興味を持ったら、ヨルゴス・ランティモス監督の過去作も辿ってみると、それぞれとんでもない世界が描かれていて、強烈な擬似体験ができます。
『憐れみの3章』
2024年9月27日より全国公開
R-15+
ウォルト・ディズニー・ジャパン
公式サイト
©2024 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.
TEXT by Myson
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情報は2024年9月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。
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