REVIEW
黒沢清監督のもと、主演の菅田将暉をはじめとして、古川琴音、奥平大兼、岡山天音、荒川良々、窪田正孝と、演技派が揃った本作は、現代社会に蔓延る利己主義が闇を生み、その闇が相互に絡み合い、大きなうねりとなっていく様を描いたスリラーとなっています。
菅田将暉が演じるのは、昨今問題視されている、不正な転売をする転売ヤーの吉井です。吉井は商機をつかみ、一段と商売を広げようとします。序盤は吉井が順調に商売を展開していく様子に悶々とさせられます。ただ本作は、世の中はそれほど甘くない点も描いています。だからといって、吉井が窮地に立たされる場面が心地良いかといえば、そうでもない点がミソです。つまり、どっちもどっちというところで、さまざまな問題が提起され、考えさせられます。
真面目に地道に働くことと、楽をして稼ぐことという単純な構図でもありません。メインキャラクターには共通して、焦燥感や挫折感のような空気が漂います。その背景には、経済格差や地域格差とさまざまな問題があるのかもしれません。でも、根本には自分の価値観を持てなくなった社会に蔓延する闇が原因であるようにも感じます。
本作は、そんな社会で生まれた憎悪が、お互いに顔が見えないネット上(Cloud)に溜まり、さらなる憎悪を生み出していく比喩のように思えます。
ここからはあくまで私個人の解釈です。ネタバレしないように書いていますが、鑑賞後に読むことをオススメします。
インターネットが普及してから、世界中のあらゆる人達の考えを知る術ができました。どんな情報でも手軽に入手できるようになり、上手く参考にすることもできる反面、少なからず、一定の価値観にさらされる機会が増えたと考えられます。そして、最先端技術によって、個々に興味があると思われる情報が勝手に集まるようになると同時に、他の情報が遮断されてしまう、フィルターバブル現象が起こり、知らずしらずのうちに、偏った価値観に導かれている恐れもあります。そうしたなかで、少なからず自分の価値観ではなく、社会が作ったといおうか、どこの誰だかわからない人達だけが持つ価値観に侵食されている人もいるように思います。
そうした、他者の価値観にさらされていくうちに、まやかしの“勝ち組”になるには手段を問わないと思えるくらいに追い詰められた人達が生まれます。彼等はうっぷんの矛先を常にネットで探していて、格好の標的を見つけ、さらに“仲間”を見つけると、歪んだ正義感は正当化されてしまいます。問題なのは、主人公を含めて、メインキャラクターの誰もが自分達の所業をどこか正当化している点にあります。劇中では、命の危険にさらされながらも、まだ販売状況を見守る吉井の姿にゾッとさせられる場面もあります。本作は、登場人物の誰にも共感できないものの、反面教師として観る価値があります。
デート向き映画判定
恋愛関係にも触れる展開があり、カップルで観ると気まずくなる可能性もなきにしもあらずです。相手を選ぶ前に自分の価値観を見つめ直すと、どんな相手が良いかが自ずと見えてくるかもしれません。本作に登場するカップルが異様に見えるのか、正常に見えるのかによって、あなたの価値観がどうなっているのか、気づけることを祈ります。
キッズ&ティーン向き映画判定
序盤では想像できない展開が待っています。ネットの世界と現実の世界の境界線はあってないようなものだということもわかるでしょう。本作でその怖さをどれくらい感じ取れるかによって、今後の人生が健全なのかどうかが変わってくるように思います。
『Cloud クラウド』
2024年9月27日より全国公開
東京テアトル、日活
公式サイト
©2024 「Cloud」 製作委員会
TEXT by Myson
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情報は2024年9月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。