数々の名作を手がけてきた巨匠、倉本聰が長年に渡り構想してきた渾身のドラマが映画化された『海の沈黙』。今回は本作であざみ役を演じ、これまでも倉本聰作品に出演してきた菅野恵さんにお話を伺いました。本作で映画初出演を飾った感想や倉本聰作品の魅力について直撃!
<PROFILE>
菅野恵(かんの けい):あざみ役
1994年8月19日生まれ。東京都出身。2015年に舞台芸術学院ステージアーティスト科を卒業。その後舞台を中心に俳優活動を始め、小劇場などに出演する。2017年、富良野GROUP「走る」(作、共同演出:倉本聰/演出:中村龍史)にオーディションで選ばれ出演する。
2019年4月〜2020年3月まで放送されたテレビ朝日のドラマ『やすらぎの刻〜道』の里子役でドラマデビュー。2023年、富良野GROUP公演“悲別.KANASHIBETSU2023”(作、監修:倉本聰/演出:久保隆徳)に出演するなど、倉本聰作品に多数出演している。本作、映画『海の沈黙』ではあざみ役好演し、スクリーンデビューを果たす。
美とは他人に左右されないもの
シャミ:
これまでも倉本聰さんの作品に出演されており、本作でスクリーンデビューとなりました。最初に役が決まった時の感想や意気込みを教えてください。
菅野恵さん:
最初にキャストの方達のお名前を聞いていたので、こんなチャンスをいただけるなんてと思いました。望んでこの立場になれるものではないので、私自身すごく嬉しかったです。倉本先生が私の名前を挙げてくださったので、その期待を裏切ってはいけないという想いと嬉しさとで身の引き締まる想いでした。
シャミ:
倉本先生から直接オファーをいただいたんですね。
菅野恵さん:
先生とは元々定期的に電話をしていて、映画を書いているという話も聞いていました。そしたら「こういう役なんだけど、まだ決まっていないからやる気はあるか?」と言われて、「やる気はあります!ぜひやらせてください」と答えました。初めての映画でこんな方達と名前を並べられるということで、もちろんプレッシャーもありましたが、不安要素を数え出したらきりがないのであまり考えないようにして、先生がやるかと言ってくれた言葉を信じてやろうと自分に言い聞かせました。
シャミ:
最初に台本を読んだ時に、あざみというキャラクターや物語についてどんな印象を持ちましたか?
菅野恵さん:
最初に本を読んだ時はすごく難しいし、考えなきゃいけないことがいっぱいあるなという印象で、どこから手をつけたらいいんだろうと思いました。でも実際に撮影に入り小樽へ行き、目の前に景色が広がった上で物語が重なると、こういう風に立体的に見えるんだと実感が湧きました。
シャミ:
あざみを演じる上で、監督や倉本先生とお話をされたことは何かありますか?
菅野恵さん:
先生からはあざみの履歴書をいただいて、「伸び伸びやりなさいよ」とか、「本木さん、中井さんが助けてくれるだろうから」と言われましたが、あまり具体的にこれをしなさい、あれをしなさいということは言われませんでした。監督からは「堂々とやりなさい」と言われたので、すごくシンプルなことですけど、そういったところから物怖じしないようにと思いました。
シャミ:
最初は難しそうだと感じたあざみを、ご自身の中でどのように理解してキャラクター作りをしていったのでしょうか?
菅野恵さん:
先生から役の履歴を作りなさいといつも教わってきたので、今回も履歴を作ったことはもちろんですが、実際に撮影で本木さんや中井さんを前にした時に、お二人が本当に役としてそこにいらしたので、あまり自分がごちゃごちゃと考えても歯が立ちませんし、ああしようこうしようとか小賢しいことを考えるのはやめて、目の前の竜次(本木雅弘)やスイケン(中井貴一)に身を委ねていった感じです。
シャミ:
お二人にも助けられながらあざみを作っていったんですね。
菅野恵さん:
お二人の演技を受けて、あざみはこういう気持ちの動きをするんだなというのは、台本を読んでいた時以上にすごく深まりました。特に本木さんとの共演シーンが多かったので、本木さんが変化していくのも見ていてわかりました。私もすごく引っ張っていただいて、あざみはこういう子だったんだというのを演じながら見つけていきました。あざみには寂しさも可愛いらしい部分もあるし、竜次に対して母性的な感情を持っていることは、実際に撮影に入って演じるなかで濃厚に見えてきました。
シャミ:
本木雅弘さん、中井貴一さんなど、本当に錚々たるキャストが出演されていますが、一緒にお仕事をされていかがでしたか?
菅野恵さん:
楽しかったです。でも振り返ってみると緊張していたなと思います。でも、本木さんや中井さんのお芝居を間近で見られたことはすごく嬉しかったです。
シャミ:
間近で感じたお二人のエネルギーや、俳優として刺激を受けた点などはありますか?
菅野恵さん:
まず空気感が本当にすごかったです。本木さんはずっと竜次として現場にいました。私はシーン的に竜次のクライマックスに一緒に入ることが多かったのですが、その時は減量もされていましたし、心身ともに集中している空気がひしひしと伝わってきて、これに対峙しなくてはいけないと思いました。
中井さんはテストから本番へのギアの入れ具合が本当にすごくて、ご自身で意識されているのかわかりませんが、テストの時に良いお芝居をされていても、本番はさらに全然違う素晴らしいお芝居をされていて、それを傍で見ることで私自身も感情を動かされました。
シャミ:
そんなお二人との共演シーンでも、菅野さんがあざみを本当に自然に演じられていたので、映画初出演とは思えませんでした。
菅野恵さん:
ありがとうございます!
シャミ:
あざみは竜次を慕うバーテンダーでしたが、特に共感できたところ、ご自身と似ていると思ったところはありますか?
菅野恵さん:
あざみはすごく真っ直ぐで、刺青を彫って欲しいと思い、竜次の元へ行くので、すごくエネルギーのある子ですよね。台本を読んでいた時は、「本当にそうかな?」と思ったシーンもありましたが、実際に現場であざみとして行動に移してみると、確かにそうなるなと思いました。そうやって実際にやってみてわかった部分がたくさんあります。あざみの動物的な部分というか、目の前で竜次と対峙して理屈によって生まれたわけではない行動は、少し動物的な嗅覚が働いたんだと思います。そういうところは私もわりと似ているところがあります。私は、物事を何となく直感でこっちと選ぶところがあるので、そういう感覚は少し似ているかもしれません。
シャミ:
心の赴くほうへ行動するあざみを観ていると、憧れるというか、もっと自分を解放していいんだと背中を押されるように感じました。
菅野恵さん:
そう思っていただけたなら嬉しいです!
シャミ:
倉本先生の作品は北海道が舞台になっている作品が多くありますが、小樽には今まで行ったことがありましたか?
菅野恵さん:
小樽は今回初めて行きましたが、すごく綺麗な街でした。台本を読んだ時には、あまりわからなかった部分や、小樽の風景、それこそ運河沿いをスイケンと安奈(小泉今日子)が歩いているシーンは、2人がこの運河を歩いていたら余計なことはいらないという説得力があるように感じました。なので、先生は台本の段階できっとそこまで見えて書いていたんだと思います。
シャミ:
さすがですね!撮影の合間に小樽を楽しむ時間などはあったのでしょうか?
菅野恵さん:
撮影の合間に3、4日空いた時があったので、小樽の街を隈なく歩いていました。日本酒を作っている酒蔵に行ったり、ビール工房に行ったり、あとは地元のご飯屋さんにも行きました。お店の方と話していて、何でそうなったのかわからないのですが、「お仕事ですか?」という話から、「もしかして映画を撮っていますか?」と言われて、「そうです」と言ったら「知ってますよ」みたいな。そうやって地元の方も映画のことをすごく知ってくださっていて、「楽しみにしているよ」と声をかけていただきました。
シャミ:
撮影時から小樽で話題になっていたんですね。小樽で特にオススメの場所はありますか?
菅野恵さん:
小樽には“ミツウマ”というゴム長靴の老舗メーカーがあるんです。馬が3頭いるロゴがあるのですが、いろいろなところでそのグッズが売っていたので、私は単純にロゴが可愛いなと思って小さいサコッシュを買いました。それで、街をウロウロしながらある商店街に出た時に、大きく“ミツウマ”と書かれた看板がかかっているのを見つけたんです。そういう歴史あるブランドの発祥であり、ロゴを可愛いデザインとしていろいろなグッズを作って販売しているという新旧が上手く入り交じって賑わっている街だと感じました。有名な観光地はもちろんですが、道を1本入っただけで街の風景が変わるので、そういうところも楽しくてオススメです。
シャミ:
小樽に行った際にはぜひチェックしてみます!本作は絵画をテーマに美とは何かが問われている作品でした。菅野さんにとって美とはどんなものでしょうか?
菅野恵さん:
難しいですよね。私がこの作品に参加しながらすごく感じていたことでもありますが、今はSNSもネットも充実していますし、いろいろな情報があるなかで、本当に自分が良いと思って選んでいるものってあるのかなということを感じました。やっぱり人に流されてしまうこともありますし、でも美ってそういうものではないと思うんです。具体的に美とはこうというのはありませんが、美とは他人に左右されないものなんだろうなというのはすごく思います。ただそれを大切にするのはすごく難しいことで、そもそも気づけないですよね。いろいろな情報に左右されてしまい、自分が本当に大切にしているものに気づきにくいと思うんです。だからこそ美は自分だけのものなんですけど、それを見つけるのが難しいなと思います。
シャミ:
素敵な回答をありがとうございます。菅野さんご自身が最近何か美しいと感じたものは何かありますか?
菅野恵さん:
私は今静岡で生活をしていて、仕事がある時に東京に来ています。静岡にいる時に雨上がりに犬の散歩に出かけたら大きな虹が出ていたんです。静岡は空が広いので端から端まで綺麗に見えて、しかも2重になっていたんです。端から端まで見える虹を見たのは初めてだったので、すごく感動してたくさん写真を撮りました(笑)。
シャミ:
都会だと端から端まで虹が見えることはそうないので羨ましいです!本作を含めてこれまでも倉本聰さんの作品に出演されていますが、菅野さんの思う倉本聰作品の魅力はどんなところだと思いますか?
菅野恵さん:
先生の作品に出てくるのは、綺麗な人ばかりではなくて、ちょっとずる賢い人や何か欠けている人がたくさん出てきて、そういった部分が愛らしくて皆が共感できる部分だと思います。誰でもそれぞれ欠点があるし、聖人ではないですよね。そういうところから少し大袈裟ですが、こんな自分でも生きていていいんだということを感じさせてくれるのが先生の脚本の魅力だと思います。
シャミ:
なるほど〜。ちなみに倉本先生は普段はどんな方なのでしょうか?
菅野恵さん:
すごく可愛らしい方です!全然怖くないですし、「いいよ、いいよ」と言いながら人に注目されるのも好きですし、そういう意味でいうと、先生はすごく人間らしい方です。簡単な言葉になってしまいますが、恥ずかしい気持ちと、世の中から褒められたいという両方の感情があるような方で、それが傍にいてすごく垣間見えるのでいつも可愛いなと思っています。そんなことを言ったら先生に怒られてしまうかもしれませんが(笑)。
シャミ:
とてもチャーミングな方なんですね!今回がスクリーンデビュー作でしたが、これまで出演されてきた舞台やドラマの現場と比べて1番違うと感じたのはどんなところでしょうか?
菅野恵さん:
人の数ですね。照明部、音響部、撮影部、演出部と部署が分かれていて、そこにたくさんの方がいて、もちろん撮影している段階もそうですし、準備段階から今こうして映画の宣伝をして、皆さんに観ていただこうということで、またたくさんの方が動いてと、映画はこういう風に作られて初めて多くの方に観てもらえるんだなというのを感じました。私が担っている部分なんて本当に一欠片で、皆さんの力があって初めて映画館で上映されることに今も感動しています。
シャミ:
プロフィールによると水泳で全国大会に出場、陸上では都大会出場、さらにダンス経験もあるなど、かなりスポーツ万能なようですが、俳優のお仕事にそういった経験が活きていると感じる部分はありますか?また、アクション作品にも興味はありますか?
菅野恵さん:
スポーツや体を動かすことはずっと何かしらやっているので、わりと体育会系なんです。まず入り口として、先生と出会ったのが舞台“走る”という作品で、私は陸上部だったのでこれは絶対にいけると思い応募しました。それで実際に受かることができたので、陸上やスポーツをやっていて良かったなというのが1つあります。アクションは、最近あまりレッスンに行けていないのですが、やりたい気持ちはずっとあるので、ぜひ出演してみたいです。
シャミ:
では最後の質問です。今後挑戦してみたい役、もしくは何か興味のある作品のジャンルがあったら教えてください。
菅野恵さん:
何でもやってみたいです。今回映画の撮影に参加して、本当に全部楽しかったんです。わからないこともたくさんあるし、こういう風に進んでいくんだなとすごく勉強になったので、今行くところはきっと全部新しいものが見られるんだろうなという気持ちなので、何でもやりたいと思っています。
シャミ:
本日はありがとうございました!
2024年11月11日取材 Photo& TEXT by Shamy
『海の沈黙』
2024年11月22日より全国公開
監督:若松節朗
原作・脚本:倉本聰
出演:本木雅弘/小泉今日子/清水美砂/仲村トオル/菅野恵/石坂浩二/萩原聖人/村田雄浩/佐野史郎/田中健/三船美佳/津嘉山正種/中井貴一
配給:ハピネットファントム・スタジオ
世界的な画家の展覧会である贋作事件が起こる。一方、北海道では全身に刺青の入った女の死体が発見される。この2つの事件の間に浮かび上がった男は、津山竜次だった。彼はかつて新進気鋭の天才画家と呼ばれるも、ある事件を機に人前から姿を消していた。現在は田村の妻であり、かつては竜次の恋人だった安奈は北海道へ向かい、竜次と再会を果たす。しかし、竜次は病を患っていた。残り少ない時間で彼は何を描くのか?彼が秘めていた想いとは?
公式サイト ムビチケ購入はこちら
映画館での鑑賞にU-NEXTポイントが使えます!無料トライアル期間に使えるポイントも
©2024 映画『海の沈黙』INUP CO.,LTD
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情報は2024年11月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。
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