映像業界で起きたとある実話を基にしたテレビ朝日映像初の長編オリジナル映画『ありきたりな言葉じゃなくて』。今回は本作で主人公の拓也役を演じた前原滉さんにインタビューをさせていただきました。拓也のキャラクターについてや、脚本に参加されたことなど、製作秘話を語っていただきました。
<PROFILE>
前原滉(まえはら こう):藤⽥拓也 役
1992年11月20日生まれ。宮城県出身。連続テレビ小説『まんぷく』(2018)などのドラマや、『あゝ荒野 前編』(2017)などの映画に出演。ドラマ『あなたの番です』(2019)ではマンションの新管理人役を演じ話題となる。近年の主なドラマ出演作に、連続テレビ小説『らんまん』(2023)、『VRおじさんの初恋』(2024)、『クラスメイトの女子、全員好きでした』(2024)、『スカイキャッスル』(2024)などがあり、映画では『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』(2023)、『沈黙の艦隊』(2023)、『笑いのカイブツ』(2024)、『マッチング』(2024)などがある。本作『ありきたりな言葉じゃなくて』では、主人公の藤⽥拓也役を好演。
※前半は合同インタビュー、後半は独占インタビューです。
表現の最たるものは言葉を何も発しなくても見える部分
記者A:
まず脚本を最初に読んだ時の印象を聞かせてください。
前原滉さん:
実は僕は最初にこの話をお断りしたんです。それは当時の僕の状態として主演を受ける覚悟を背負いきれないと感じていたからです。当時特別悩んでいたわけではありませんが、いろいろな役をやらせていただくなかで、主演には主演の背負い方や覚悟の決め方があると思っていました。だから自分の気持ちがあまり前のめりになれていない状態でやるのは失礼ではないかと考えていました。普段ならいただいたお仕事に対して、すぐにやりますと答えるのが基本ですが、その時はマネージャーに「今の自分に背負いきれるものではない気がします」と話したんです。でも、その後も熱意を持ってこの作品に誘っていただき、その想いに押していただく形でやることにしました。そして脚本も一緒に作りたいとお声がけいただき、役者がそういったチャレンジをできる機会はほとんどないので、とても良い機会だと思ったのもお引き受けした理由の一つです。いざやるとなってからは「よし、やりましょう!これはどうしましょうか?」と切り替えて、監督と何度か打ち合わせをさせてもらい、「最初はこういう始まり方がいいのでは?」「ラストはこういう形ではどうですか?」など全部真摯に話を聞いていただきました。
記者A:
前原さんのご提案もいろいろと反映されている部分があるのでしょうか?
前原滉さん:
そうです。具体的にどこなのかと言われると、思っている以上に膨大な時間話し合っているので、作品を観てもわからないんです。準備稿を見たらここが変わっているとわかると思うのですが、本当にいろいろなことを話し合って今の形になりました。
記者B:
実話を基にされている側面もある作品ですが、渡邉崇さん(監督、脚本)や栗田智也さん(原案、脚本)とはどんなお話をされたのでしょうか?
前原滉さん:
栗田さんと主人公の拓也は経歴や実際に起こった出来事の大枠は同じ部分もありますが、物語にするにあたり少しキャラクターなどは変わっているので、拓也と栗田さんが似ているわけではありません。どちらかというと渡邉監督のほうが拓也に似ています。栗田さんが書いたものがベースとしてあって、さらに途中から僕が入ったという流れがあるので、渡邉さんが書き直している部分もかなりあると思うんです。だから話せば話すほど拓也って渡邉さんに似ているなと思うところがたくさんあります。
栗田さんには何か起こった時の心情について聞き、最終的には栗田さんも話し合いで「当時はこういうことがあったけど、確かにこの作品においてそれが有効かどうかわからない」などと教えてくださり、きっと良い意味で付かず離れずいてくれたんだと思います。
記者B:
藤田拓也という人物については、前原さんはどんな印象をお持ちでしょうか?
前原滉さん:
僕と拓也は似ていると思います。もちろん彼には浅はかな部分もありますが、特別になりたいという感情がある一方で自分は普通なんだということがわかっている状況は、すごく共感できます。だから僕はあまり彼のことを嫌いになれないんです。以前別で取材していただいた時に、拓也という人間性に対しての賛否がすごく分かれていておもしろいなと思いました。中には嫌いですと怒っている方もいれば、拓也のことを嫌いになれないという方もいました。僕が拓也を演じましたが、僕が拓也なわけではないので少し不思議な感覚でした(笑)。
シャミ:
私も正直最初は拓也をキャラクターとしてあまり好きになれないかもしれないと思いました(苦笑)。
前原滉さん:
そうなんですね!嫌いで怒っていませんか(笑)?
シャミ:
いえいえ、怒っていません(笑)。物語が進み、拓也の姿を観ているうちにどこか共感できる部分があり、すごく引き込まれました。拓也の周りにはりえ(小西桜子)はもちろん、職場の方や家族などすごく素敵な人物もいて、その人間模様も見どころだと感じました。
前原滉さん:
それこそ両親役を演じてくださった酒向芳さんや山下容莉枝さんはいてくれるだけで、無理をしなくていいというか、自然とお父さんとお母さんでいてくれる空気感がありました。先輩役の内田慈さんは師匠でいてくれる安心感があり、それから小川菜摘さんもすごく素敵に演じてくださいました。僕が何か特別なことをしなくても素晴らしい役者さん達がそういう風にいてくださったので、本当にありがたい環境でした。
シャミ:
先輩方が自然と引っ張ってくださったんですね。
前原滉さん:
そうです。もちろんそれ以外の場面で、僕自身どうしても頑張らないといけない部分もありましたが、中華料理店での家族の場面であればちゃんと家のようにしてくださり、そういう空気を先輩方が作ってくださいました。
シャミ:
あの中華料理店はとても良い雰囲気でしたよね。
前原滉さん:
あのお店は本当にある場所で営業もしているんです。なので、撮影中はお昼にレバニラを食べさせていただいて、すごく美味しかったです。
記者B:
今回は脚本も一緒に作り上げた作品でしたが、いち映画ファンとして観た時にこの作品はどんな作品だと思いますか?
前原滉さん:
『ありきたりな言葉じゃなくて』というタイトルですが、この作品の中にありきたりな日常の何かがある気がするんです。それは事件的なことも含めて誰にでも起こり得るし、誰もが抱えている想いがきちんと描かれていると思います。もちろん共感できない方もいると思いますが、それも1つの作品としておもしろい部分だと思います。良い映画とは、賛否がちゃんと分かれていることだと思うんです。何もないとか、ただおもしろかったというよりも、好き嫌いが分かれるのが良い作品だと思うので、この作品もそうなったらいいなと思います。
それにある意味映画っぽくない作品だと思うんです。展開や構成は観やすいものになっていますが、そのさじ加減はこのチームだったからこそだと思います。僕は最初の脚本の段階では「もっと暗い話にしませんか?」「本当に底に落ちるほうが魅力的な気がします」と話したのですが、監督の意見はそうではなかったんです。でも最終的に完成した作品を観ると、確かにこのチームで渡邉さんが監督をやるならこのほうが良かったと思いました。
シャミ:
拓也は脚本家で、本作において言葉の大切さや難しさも描かれていました。前原さんが普段言葉に対して意識されていることや、気をつけていることは何かありますか?
前原滉さん:
実は僕はあまり言葉を信用していないんです。言葉を甘く見ているというわけではありませんが、言葉ってやっぱり難しいと思うんです。その時のテンションや熱みたいなものを伝えることって僕は限りなく不可能に近いと思うんです。でも、だからこそ映画やドラマを何回も観たくなるんだと思います。
僕は言葉に対してすごく信用したいけど信用し過ぎないようにするという距離の取り方をしている気がします。だからこそ心の健康が保たれる部分があると思いますし、相手のことをちゃんと見られるようになるんだと思います。表現の最たるものは言葉を何も発しなくても見える部分だと思うんです。だからどんな言葉を使うにしても意味が伝わればいいなくらいの距離感でいます。
例えば「ありがとうございます」の一言の言い方で変わってしまうとなると、コミュニケーションとしてすごく難しいですよね。でも海外の方とコミュニケーションをとる上で、言葉が通じなくても意外と伝わったりすることもあります。そういう瞬間があるということは、やっぱり何を思っているのかが大事なんだと思います。その上で言葉に想いが乗っていたらより素敵なことだと思います。
俳優の仕事を始めるきっかけになった人物は…
シャミ:
拓也が未熟であるがゆえに人生につまずき成長する姿はとてもリアルで、現実にも同じような悩みを持つ方がいると思いました。もし前原さんの傍に拓也のような人物がいたら、どんなアドバイスをされますか?
前原滉さん:
もし僕の近くにいたら何も言わないかもしれません。僕は内田さんが演じた先輩のようには優しくなれない気がします。少しドライかもしれませんが、人が人を変えることはできないと思っているので、何も言わないと思います。こうしたほうがいいよとつい言ってしまう時もありますが、その人が本当にそれでいいと思わないと変わることはないと思うんです。
拓也の周りにはあんなに良くしてくれる人がいるにも関わらず、それを裏切ってしまう形になるわけですが、彼の場合それを身をもって知るしかないと思うんです。だから事前に拓也にかける言葉はありませんが、事が起きてから拓也に何か言葉をかけることはあるかもしれません。もし最初から何か起こしそうな気配があったとしても、その時に言っても聞かないと思うんです。だから事が起きてから声をかけるとしたら、「ここからどう頑張るかしかないんじゃない?頑張ろう!」と言うと思います。
シャミ:
確かに拓也の場合は、最初に言っても聞かないタイプかもしれませんね(苦笑)。
前原滉さん:
そうなんです。だから、最初は何も言わずに距離をとると思います。
シャミ:
ここからは前原さんご自身についてお伺いさせてください。最初に俳優のお仕事に興味を持ったのはいつ頃だったのでしょうか?
前原滉さん:
高校生の時にサッカーを辞めてからです。高校に入った時に友達と一緒にサッカー部に入って全国大会に行こうと話していたのですが、結局僕がサッカー部に入らず、その子のことを裏切る形になったんです。でも、友達はその後部長になって全国大会にも行きました。その時にすごいなと思いながら、サッカーをやっておけば良かったと思う自分がどこかにいました。
それから進路を選ぶ段階になり、どうしようかと考えているうちに母が演劇に連れて行ってくれて、その時に役者の仕事をしたいと思いました。その後養成所に入ることになるのですが、それも実は母が見つけてくれたんです。僕は当初東京に出てフラフラとしながら俳優をやるつもりでしたが、それはやめてくれと言われ、後々に母が「ここがいいと思う」と見つけて入ったのが今の事務所の養成所です。その養成所には4年間通い、5年目の時に事務所の方が芝居を見てくれるタイミングがあり、そこで僕を担当したいというマネージャーが現れてというのが大まかな流れです。
シャミ:
きっかけはお母様だったんですね。
前原滉さん:
そうです。本人は先見の明があると言っていました(笑)。
シャミ:
本当にそうですよね!今でもお母様にお仕事のことなど、何か相談されたりすることもありますか?
前原滉さん:
それはないです。僕は自分が出ている作品も言わないので(笑)。でも、たまに会った時に「今度この仕事をやることになって、こういう方とご一緒できるからすごく楽しみなんだよね」みたいな話はします。でも、「明日オンエアだよ」とかは恥ずかしいので言いません。たぶん観てくれていると思うんですけどね。
シャミ:
温かく見守ってくださっているんですね。実際に俳優のお仕事を始める前と後とで、俳優に対する印象で変わったことはありますか?
前原滉さん:
表に出ている以上に大変なことがいっぱいあるので、思ったより夢がないなと思うことがあります(笑)。でも、表に出ている以上に楽しいと思える瞬間もたくさんあるんです。そういう意味では、やっぱり僕の好きな仕事だなと思います。だからやって良かったと思いますし、ずっと続けたいと思えるので後悔は全くありません。今もそうですけど、俳優の仕事は本当に楽しいです。
シャミ:
素敵ですね!今回は主演でしたが、脇役も含めて本当にいろいろな作品で活躍されていて、役に応じて雰囲気がガラリと変わる印象があります。普段役作りをされる際に意識されていることや気をつけていることは何かありますか?
前原滉さん:
脚本を読んだ第一印象を大事にすることは毎回意識しているかもしれません。「この人はきっとこういう人だろうな」とか、脚本に書かれている情報の中で感じた第一印象は結構信じています。だから、そこを大事にしながら変化させていくという感じです。第一印象から多少思考が変化することもありますが、基本的には第一印象を大事にして演じることが多いです。
シャミ:
なるほど〜。俳優、もしくはそれ以外で今後挑戦してみたいことはありますか?
前原滉さん:
僕はラジオが好きなので、ラジオをやりたいという想いはずっとあります。でも、俳優として映画、舞台、ドラマ問わず何でもやりたいという気持ちもあります。だから何かこれだけをやりたいと決めずに俳優として動けることは何でも挑戦してみたいです。それから僕はまだ日本から出たことがないので、シンプルに海外に行ってみたいです。海外でお仕事をするのもいいなと思います。
シャミ:
海外作品にも興味があるということでしょうか?
前原滉さん:
英語は話せないのですが、海外作品もやってみたいです。こうやって言っていたら本当叶うと思うんです。
シャミ:
言霊ってありますもんね!では最後の質問です。これまでで1番影響を受けた作品、もしくは俳優や監督など人物がいらっしゃったら教えてください。
前原滉さん:
難しいですね。生き方に関していうと、僕にとってはやはり母の影響が大きいと思います。物事の考え方、人との接し方など、少なからず影響を受けている人物だと思います。今後の人生でどれだけ頑張ってもあの人には勝てないと思うのは、やっぱり母が浮かんできます。このお仕事をすることに対して快く送り出してくれたこともそうですし、もちろん尊敬もしています。そういう意味だと母に1番影響を受けていると思います。親だから当然なのかもしれませんが、同じ仕事をしている誰かというよりも母だと思います。
シャミ:
本当に素晴らしいお母様なんですね。
前原滉さん:
僕の人生において大いに影響を与えてくれた人です。だから家族に喜んでもらえるような仕事ができたらいいなと思います。
シャミ:
本日はありがとうございました!
2024年10月10日取材 Photo& TEXT by Shamy
『ありきたりな言葉じゃなくて』
2024年12月20日(金)より全国公開
監督・脚本:渡邉崇
出演:前原滉/小西桜子/内田慈/奥野瑛太
配給:ラビットハウス
32歳の藤田拓也はテレビの構成作家として働き、念願のドラマ脚本家デビューが決定する。夢を掴み、浮かれた気持ちでキャバクラを訪れた拓也は、そこでりえと出会い意気投合する。ある晩、りえと遊んだ拓也は泥酔し、翌朝目を覚ますとそこはホテルのベッドの上だった。記憶がない拓也は、りえの姿が見当たらないことに焦り、彼女と連絡を取ろうとするが…。
公式サイト
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情報は2024年12月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。
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