インターネットやスマートフォンなどテクノロジーの進化で、私達の生活は大変便利になったと同時に、SNSをはじめとしてコミュニケーションの方法が多様化しました。こうした環境には大きなメリットがある一方で、より高度な社会的能力が必要とされる時代になったといえます。
そして、昨今ではウェルビーイングという言葉がよく聞かれるようになり、さまざまな面で従来の価値観を見直す傾向も出てきています。また、生成AIの登場を機に、改めて人間らしさに目を向ける機会が増えたように思います。その中でも、感情、情動は人間らしさの象徴と捉えられます。
このような背景から、テストで測る学力などに相当する認知能力とは別に、非認知能力、社会情動的スキルが注目されつつあり、IQ(Intelligence Quotient:知能指数)に対して、EQ(Emotional Intelligence Quotient:情動知能指数)の向上も重要視されつつあります。そして、社会情動的スキルの向上を目的とする学習の一つに「社会性と情動の学習(Social and Emotional Learning/以下、SEL)」があります。
日本ではまだ実施例が多いとはいえないものの、海外では既に何年も前から取り組まれています。SELの研究機関の一つとして、CASEL(社会性と情動の教育促進協同チーム)があり、日本では小泉令三教授を筆頭に研究が進められています。
ところで、なぜ本サイトでSELを紹介するのか、少し私の話を書きます。
私は、映画好きの父の影響で幼い頃から多くの映画を観て育ちました。そのなかで娯楽として楽しんできただけではなく、精神的に何度も映画に助けられてきました。だから、映画鑑賞はウェルビーイングに寄与する部分があると考えており、漠然とした感覚を言語化したい、科学的に証明したいという思いから、現在は学術的に商業映画と映画ユーザーの研究をしています。
私の研究の目的は、商業映画をウェルビーイング教育に活用することです。そして、研究を進めるなかSELを知りました。いい年齢になった今こういうのも何ですが、私は根本的に人見知りです。不器用な性格でもあります。だからこそ余計に、社会性と情動にフォーカスしたSELに興味を持ち、商業映画とも相性がバッチリだと考えました。
このような経緯から、私は商業映画をSELの教材として活用すべく研究をしながら、商業映画を使ったSEL、名付けて【映画でSEL】をより多くの方に知っていただきたく、本サイトで情報発信をしていくことにしました。というわけで、今回はまずSELを簡単にご紹介します。
SEL(社会性と情動の学習)の定義
「自己の捉え方と他者の関わり方を基礎とした、社会性(対人関係)に関するスキル、態度、価値観を身につける学習」(小泉、2011、p.15)と定義されています。
SELで向上を目指す社会的能力
<基礎的社会的能力>
●自己への気づき
●他者への気づき
●自己のコントロール
●対人関係
●責任ある意思決定
<応用的社会的能力>
●生活上の問題防止のスキル
●人生の重要事態に対処する能力
●積極的・貢献的な奉仕活動
(小泉、2011、p.19)
各スキルの詳細については、今後の記事で順次詳しく取り上げていきます。
今後、本サイトでは私の研究結果や、具体的な作品における【映画でSEL】としての観方をご紹介していきますので、お楽しみに!
<参考・引用文献>
小泉令三(2011)「子どもの人間関係能力を育てるSEL-8S① 社会性と情動の学習(SEL-8S)の導入と実践」ミネルヴァ書房
CASELウェブサイト(海外)
TEXT by 武内三穂(認定心理士)